Interview
2024.11.18

食のジャンルを越えた、街ぐるみのオリジナル日本酒が誕生。老舗酒造とのコラボの舞台裏に迫る

食のジャンルを越えた、街ぐるみのオリジナル日本酒が誕生。老舗酒造とのコラボの舞台裏に迫る

日本橋の伝統を引き継ぐ日本橋料理飲食業組合の青年部からなる「日本橋三四四会」。日本橋の食を盛り立てるために多彩な活動をしている彼らが、今年9月にオリジナルの日本酒をリリース。多岐にわたるジャンルの店舗でお客さまに楽しまれているオリジナル日本酒は、どのような経緯で開発されたのか、どんな想いが込められているのか、三四四会の代表・寳井さん(蛇の市 本店店主)にお話を伺いました。

三四四会の連携を強める “オリジナル”の日本酒

―オリジナル日本酒をつくる構想はいつごろからあったのでしょうか?

個人的には、三四四会の会長に就任したときから、オリジナルのお酒を加盟店舗で提供できたらという構想を持っていました。会の連携強化にも繋がりますし、お客さまに三四四会を知ってもらうきっかけにもなるなと。我々は飲食店組合なので、共通でお客さまへ提供できるものと考えるとやはりお酒が最適なのではと考えていました。

以前にオリジナルラベルのウイスキーは出したことがあったのですが、今回は日本酒を作ってみませんか?と三四四会のメンバーに発案したのがきっかけです。

―今回の構想を実現するにあたり神奈川県・海老名市の泉橋酒造さんと取り組まれていますが、こちらの蔵元さんと組まれたのはどういった経緯だったのでしょう?

個人的に昔から親しくしている蔵元さんというのもありましたが、「酒造りは米作りから」のコンセプトのもと、海老名市で米作りから酒造りまで一貫して取り組まれていることにリスペクトしていたのもお声かけした大きな理由です。自然資源を活かしながら品質の追求をして、地元農家と連携をしながら、地域の活性化にも注力されている姿勢に共感していましたし、それは日本橋の街全体を盛り上げたいと考える三四四会の考え方に近いので。蔵元が関東にあるので、一緒に取り組みをする上で物理的に近いという安心感もありました。

―泉橋酒造さんにもお話を伺ったところ、「日本橋で老舗として活躍されている三四四会から声をかけていただき光栄でした。さまざまなお店の料理にしっかりと寄り添えるお酒にしたいと気が引き締まる思いでのぞみました」とおっしゃっていました。

ありがたいですね。自らお米を作り、そのお米でお酒をつくっている本当に実直でクオリティの高い蔵元さんであること、旧知でもあることで、私自身は安心していましたが、今回は三四四会としての依頼なので、会のメンバーにも納得してもらった上で、どのようなプロセスで作り上げていくのかを検討していきました。

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1857年創業の泉橋酒造。県内有数の穀倉地帯である海老名耕地に蔵を構え、170年近く酒造りをしている。(画像:泉橋酒造株式会社ホームページより)

日本酒のブレンド(アッサンブラージュ)に挑戦

―どのような工程で作っていったのでしょうか。

お酒づくりについての勉強会を開くところから始めて、オリジナル日本酒をつくる上でもさまざまなアイデアが挙がりました。酵母や精米歩合も自分たちで決めて小さいタンク1本分をつくろうとか、それも、“三四四会”にかけて「“34.4%”の精米歩合にしよう」とか(笑)。でも、実際に一からつくるとなるととても大変だし、それが美味しいかどうかは一度出来上がらないとわからないため時間もかかり、みんな自分のお店を営業しながらどこまでできるのかという課題もあって。

そんな中で、泉橋酒造さんからワインやウイスキーなどに用いられている「アッサンブラージュ」という手法で作ってみませんか?と提案をいただきました。泉橋酒造さんのお酒をいくつかセレクトし、三四四会独自の配合でブレンドしてみてはどうですか?と。

―アッサンブラージュをした日本酒は、あまり耳にしないですね。

「ブレンドした日本酒ってどうなの?」という意見も最初はあったのですが、泉橋酒造さんは百貨店のオリジナル商品や、ソムリエの方がお肉に合わせる日本酒をアッサンブラージュで作られた経験もあるとお聞きし、三四四会でもチャレンジしてみることにしました。

「多彩なジャンルのお店で提供できる日本酒をつくりたい」ということを杜氏さんに伝えた上で、泉橋酒造のお酒を4種類選んで持って来てもらい、さまざまな配合を提案してもらいながらみんなで試飲。

酒の肴と一緒に、ブラインドテイスティングをしながら、ああでもない、こうでもないと意見交換をしつつ、最終的には、山田錦を100%使った辛旨口の純米吟醸と、雄町米を使った生酛(きもと)造りに2年間の熟成をかけた生酛純米酒を配合したものに決定しました。

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泉橋酒造のシンボルマークは、田んぼで生まれ育つ赤とんぼ。日本“橋”の上を飛ぶ赤とんぼのラベルもオリジナルだ。

食のジャンルを飛び越えて、新たな日本酒の形に

―さまざまなジャンルのお店が同じ「味」をつくっていくにあたって、意見をまとめる難しさはなかったですか?

飲食については全員プロだし、お客さまに良いものを出したいという気持ちがあるから、まとめるのは大変でしたよ。和食・洋食という分け方だけでなく、和食の中でも鰻も寿司も蕎麦もあって、基本的にそれぞれ合うお酒は違うので。でも最終的に、自分たちが美味しいと納得して選んだ味を、自分のお店でお客さまに楽しんでもらうためにどう提案するか、という考え方に切り替えてそれぞれが捉えるようになっていったと思います。

―泉橋酒造さんも試飲の際の様子を、「食のプロでもある皆さまが、ご自分の料理やお客さまを想定して、吟味していた姿が印象に残っています」とお話されていました。

結果的に、山田錦の純米吟醸のキリッとシャープな口当たりに、生酛造りで熟成させたコクのあるアクセントが効き、さまざまな表情を持った味わいに仕上がり、多種多様な食事に合わせられる日本酒になったと思います。

―同じ日本酒を、多岐にわたるジャンルの料理と楽しめるのは、新しさも感じます。

個人的には、今回作ったお酒は常温より少しだけ高い温度にしてグラスで飲むと、お肉の脂や、バターの風味にも合うと思うんです。洋食のお店も「こんな機会じゃないと日本酒を提供することはないし、挑戦してみる」と言ってくれていて、日本酒の可能性も広げられるプロジェクトにもなったのではないでしょうか。

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「冷やしても、温めても、酒自体の持つ魅力が伝わり、どんな料理にも合うものを目指した」と話す寳井さん。

泉橋酒造から学んだ、地域を巻き込む力

―今後、このお酒を使ってどのように街を盛り上げたいと考えていますか?

それぞれが自分たちのお店で出すことも続けていきますが、イベントなどでも積極的に勧めていきたいですね。例えば、毎年春に開催されるSAKURA FES NIHONBASHIの目玉企画である「ニホンバシ桜屋台」では、日本橋のグルメと合わせて、この日本酒を味わってもらいたいなと。地域に根差した大きなイベントで、街ぐるみでつくったオリジナルの日本酒を知ってもらい、楽しんでもらえたらうれしく思います。

―今回の取り組みを経て、新たな学びや発見はありましたか?

泉橋酒造さんと取り組んだことで、地域に根を張った活動の重要性に改めて気付かされました。海老名は一時休耕田が多かったらしいのですが、泉橋酒造さんが地元のお米の生産者さんと「さがみ酒米研究会」を発足させ、酒米栽培の研究・勉強会を続けたことで、海老名産の山田錦・海老名産の雄町を使った酒造りが進み、ブランディング効果もあり、海老名の農業が盛り上がったと聞いているんです。

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夏の終わりに神奈川県農業技術センターの方たちが酒米を育てている農家の田んぼをまわり、成育調査をするそう。地域ぐるみで米づくり・酒造りを盛り上げている。(画像:泉橋酒造株式会社ホームページより)

三四四会も、飲食店が連携して街全体を盛り上げようという共通意識を持って、多岐に渡った取り組みをしているという意味では、似ている部分があると思っていますが、泉橋酒造さんの地域を巻き込む力はもっと見習っていきたいと感じています。

今までも、地域の小学校とコラボメニューを作って三越さんで販売したり、“つなぎふと”に参加して日本橋みやげを作ったりと、コラボレーションには注力してきましたが、今後も日本橋の魅力を発信できるような“街ぐるみ”の取り組みを考えて、仕掛けていきたいですね。

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泉橋酒造杜氏の寺田さんは「三四四会が長くお店を守り続けてきたように、何十年先までも“三四四会と泉橋の酒”を作り続けていけたらうれしい」とメッセージを寄せた。

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