Interview
2026.07.16

"専門外"だからこそ、オープンな場をつくれる。三井不動産が日本橋で挑む半導体コミュニティ「RISE-A」

"専門外"だからこそ、オープンな場をつくれる。三井不動産が日本橋で挑む半導体コミュニティ「RISE-A」

「半導体」と聞いて、どのようなことを思い浮かべるでしょうか。私たちのスマートフォンやパソコンなどを動かす生活必需品。目に見えないハイテクな精密機器。あるいは、北海道や九州など、地方に巨大な工場を構えるイメージを持つ方もいるはずです。

外から眺めていると、半導体産業はどこか縁遠いものに見えるかもしれません。しかし、一歩業界の内部に入れば、いま企業や業種の壁を越えた協業が次々と動き始めて、高い熱量が生まれてきています。

その熱を、東京の中心部に近い日本橋で、かつ業界の「外側」にいる不動産会社が束ねようとしている。それが2025年に生まれた一般社団法人RISE-A」です。運営を担う三井不動産・イノベーション推進本部半導体チーム統括の増田大樹さんと、同チームで会員との接点を担う加藤瑞希さんに、RISE-Aの活動と目指す姿について聞きました。

業界の「外」にいるからこそ、中立でいられる

─まずお聞きしたいのですが、RISE-Aとはどのような場なのでしょうか。

増田大樹さん(以下、増田):ひとことで言えば、半導体を「つくる」「つかう」、そしてそれを「ささえる」みなさんが一緒に集まるコミュニティです。「つくる」は半導体メーカーなどのサプライヤー、「つかう」はそれを製品やサービスに取り入れる企業・ユーザーですね。2025年の10月に拠点が開業し本格活動がスタートしたまだ新しいコミュニティですが、すでに多くの会員様にご利用いただいています。

面白いのは、この「つかう」プレーヤーが半導体の場合、特定の業界に限らないことなんです。スマートフォンも自動車も、農業もドローンも、いまやデジタル化したものには必ず半導体が入っていて、これからますます欠かせない存在になっていく。つまり、半導体を「つかう」産業は、あらゆる分野に広がっているわけです。

そこに政府や自治体、アカデミア、金融機関といった、両者を「ささえる」サポーターが加わる。この三者が一緒に集まることで、新しい共創や協業のきっかけが生まれる……。そんな場にしていきたいと思っています。

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イノベーション推進本部半導体チーム統括の増田大樹さん

─運営しているのが半導体業界のど真ん中のプレーヤーではなく、不動産会社だというのは少し意外です。

増田:三井不動産は「不動産デベロッパーから産業デベロッパーへ」というメッセージを掲げて、街をつくるだけでなく、産業そのものを育てて一緒に成長したいと考えています。

実は今回のRISE-Aに先行して、ライフサイエンス領域の「一般社団法人LINK-J」、宇宙領域の「一般社団法人クロスユー(cross U)」といったコミュニティづくりに過去取り組んできました。その実績を見た半導体業界の方から「同じようなコミュニティを半導体でもつくれないか」とお声がけいただいたのが、RISE-Aが設立された発端です。

ポイントは、不動産が本業の私たちが、業界の「外」から中立的に関われることです。特定の業界内の企業が場をつくると、どうしてもその会社のためのコミュニティになって、利害関係が出てしまう。外部の私たちだからこそ、誰でもオープンに入ってきやすい。しかも常設の拠点を持てるのは、不動産会社ならではの強みだと思っています。

─とはいえ、半導体は専門性の高い領域です。「外」の立場でコミュニティをつくるのは、難しくはありませんでしたか。

増田:おっしゃる通り、私たちは半導体の専門家ではありませんし、一人では何もできません(笑)。やりたいことに共感してくれる人を集めないと、そもそも成り立たない団体なんです。だからこの1年は、仲間集めに力を注いできました。

ありがたいことに、理事長にはノーベル物理学賞を受賞された天野浩先生に入っていただき、大学の先生方や運営諮問委員会にも力のある方々が加わってくださっている。さらに、一緒にイベントを企画してくれるエバンジェリストの方々もいます。素人の私たちがコンセプトを掲げ、それに共感する仲間がこれだけ短期間で集まり、広がっている。その体制を1年でつくれたこと自体が、いま最も大きな価値だと思っています。

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RISE-Aが提供する価値(RISE-Aプレスリリースより)

内観

RISE-Aの拠点施設「RISE GATE NIHONBASHI」は、さまざまなスタイルで利用できる開放的な空間(画像提供:RISE-A)

ユーザー、サプライヤー、金融まで。普段出会わない人が集う場

─さて、会員の方と直接向き合っているのが加藤さんです。みなさまの生の声を聞く中で、印象的な反応はありましたか。

加藤瑞希さん(以下、加藤):よく聞くのは、「“最終製品で自社の半導体がどう使われているか”を、直接知ることができるのが魅力だ」という声です。普段は取引先と「次のトレンドに向けて新たな開発をしよう」と話はしていても、たとえば自動車の中で実際にどう半導体が使われているのかは、なかなか直接知る機会がない。だからフィードバックを自分で聞きにいくしかないわけですね。

しかし、RISE-Aに来ればこの場で直接ユーザーたちの声を聞けて、現場でのイメージがクリアになっていく。その体験がとても新しいと言っていただくことがあります。また、直接的な利害関係がない立場の三井不動産が旗を振るオープンな場で、いつもとはまったく異なる業界の人と話せる。その体験を前向きに評価してくださる方は多いですね。

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イノベーション推進本部で会員との接点作りを担う加藤瑞希さん

 ─会員のみなさまのニーズを聞き取るうえで、心がけていることはありますか。

加藤:入会していただくときに、丁寧な面談を心がけるようにしています。どのようなきっかけでRISE-Aを知ったか、何を期待しているか、どういった方とつながりたいか……。これらをヒアリングして記録を残しておき、その方がイベントに来られたときに「こういう方がいらっしゃいますよ」と、さりげなくおつなぎできる。「入ってよかった」と思っていただけるようアシストするのが、私たちの役割だと思っています。

また三井不動産では増田がお話した「LINK-J」「cross U」などコミュニティ運営の成功事例が蓄積されています。それらのミートアップに自分でも参加してみて、会員の方がなぜ入っているのか、どんなつながりを求めているのかをヒアリングして、RISE-Aで活かせそうなことを考えています。

─実際にこの場で、思いがけないつながりが生まれた例はありますか。

増田:半導体は設備投資がとても重たい産業なのですが、RISE-Aのメンバーにいる金融系の会社さんとメーカーの方をおつなぎしたところ、リースという手段を使うことで、それまで重くてなかなかできなかった設備投資が解決する、という話につながりかけている事例があります。

金融は一見、半導体とは関係がないように見えます。しかし事業側と金融側がつながると、金融を活用したレバレッジのある事業展開ができる。実際、銀行などの金融機関の方も、周辺の産業や人材を強くすること自体が間接的に自分たちのプラスになると、私たちと似た視点で考えていたりするんです。

そういった方々がいることは意外と知られていないですし、セレンディピティーの機会を提供できている手応えがあります。だいたいのことは調べればわかる時代ですが、人と直接会う価値は、まさにそういうところにあると感じますね。

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日々さまざまなイベントが開かれている(画像提供:RISE-A)

地方分散した業界をつなぐ、ハブとしての日本橋

 ─RISE-Aの拠点は、なぜ東京・日本橋なのでしょうか。半導体と聞くと、最近は北海道や九州など地方が盛り上がっている印象があります。

増田:製造拠点はたしかに地方に寄りがちです。周辺環境への影響も大きいですし、必要な電力や水資源などインフラの要件も大きいことが背景にあると思います。

しかし、イノベーションは人のつながりや組み合わせの数から生まれるとよく言われます。だからこそ、その接点やネットワークをたくさんつなぐことが大切です。日本橋は、地方から新幹線で東京駅に着いて、徒歩で来られる交通の要衝。集まりやすい場所にハブとなる拠点を設けることで、創発が起こりやすくなるという立地面でのメリットは大きいと考えています。

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「日本橋をもっと知りたい」という会員さんの要望に応えて、町歩きマップを掲出

─近年、国策としても半導体産業の強化やイノベーション創出は重視されていますよね。

増田:そうですね。生成AIへの注目が高まり、地政学的な不安定さも顕在化している中で、経済安全保障の観点からも自国で半導体を作ろうと世界中が動いています。

いち早くイノベーションを生み出して、AI半導体のサプライチェーンに入り込むことが巨大な成長につながる。それが各国の戦略とも結びついている。だからみなさん、かなり熱心に取り組まれています。

 ─いま熱量がある領域なのですね。ただ半導体産業は、他の業界からは独立した、ある意味「閉じた」業界にも感じます。

増田:そう思われる方は少なくありません。ただ、一度業界内に入ってみると、複数企業が半導体の技術発展のために協業してアライアンスを組むプロジェクトがたくさんあります。

たとえば技術的なトレンドの推移として、これまでの半導体は「微細化」、つまり回路を小さくして性能を上げる方向で発展してきました。しかし最近は「これ以上小さくならない」可能性から、微細化も限界に近いと言われていまして。

そうなると、新しい素材や装置を使ったり、チップを平面で小さくするのではなく上へ積み重ねたり(積層)と、これまでとは違うアプローチが必要になる。すなわち、一社単独ではなく、複数社で技術的に協力しあわないと次に進めないフェーズが来ています。そうした業界の潮流とRISE-Aの立ち上げのタイミングが、運良くフィットしたと感じています。

─今後の展望について教えてください。

加藤:ちょうど5月末の時点で、会員が100を突破しました(*)。イベントを重ねるうちに、口コミや紹介で広がっているのを感じます。

*プレスリリース「一般社団法人「RISE-A」特別会員数が100を突破

また「取引先と一緒に来ました」「cross Uに入っていて、RISE-Aにも興味があって来ました」という形で来ていただくことも増えてきました。このまま良い口コミで広がっていけば、もっと大きな団体になれると思いますし、2年目、3年目とさらに大きくしていきたいです。

増田:いまは日本橋からのスタートですが、半導体産業は地方にも盛り上がっている場所があります。全国レベルで見ると、まだまだ知名度も足りないし活動も届いていない。だからこそ、日本全体に対してリーチできて、価値を発揮できる形を目指したい。8月には新千歳空港にも拠点ができる(*)予定ですし、イベントもオンサイトだけでなく、ハイブリッドで参加できるものを意識的に増やしています。

日本全国で半導体産業に関して、新しいものづくりを目指して活動する人々が集う、リアルとデジタル両方のプラットフォームになっていきたい。それが最も大きな展望ですね。

*プレスリリース 「日本初、空港内に半導体関連産業の共創拠点を開設 新千歳空港に「RISE GATE NEW CHITOSE AIRPORT」

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取材・文:石田哲大(Konel)  撮影:隼田大輔(幽玄舎)

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