Interview
2021.09.28

「働く」と「生きる」を体現する場所。 シェアオフィスの先駆者が語るコミュニティの在り方。

「働く」と「生きる」を体現する場所。 シェアオフィスの先駆者が語るコミュニティの在り方。

「良質なカオス」をコンセプトに、働き方の未来を思考・模索するシェアオフィス「MIDORI.so」。その4つ目となる拠点が、いよいよ10月15日、馬喰横山にオープンします。コロナ禍より以前から「働き方改革」や、シェアオフィス/コワーキングスペースには高い注目が集まっていましたが、2012年の時点からそれらを実践していたMIDORI.soはまさに先駆者と言える存在。MIDORI.soにとっても東京の東側エリアへは初進出となるそうで、150年の歴史を持つ横山町問屋街の人の流れ、コミュニティの在り方が大きく変わっていくことが期待されます。そこで今回は、MIDORI.so を運営するMIRAI-INSTITUTE株式会社の代表・小柴美保さんと、同社コミュニティ・オーガナイザーの増田早希子さんにお話を伺いました。

日々おもしろく仕事ができる環境と、仲間たちがいる空間が大事

―まず最初に、MIDORI.soがどのように始まったのか教えていただけますか。

小柴美保さん(以下、小柴):きっかけは2011年の東日本大震災でした。当時は外資系投資銀行に勤めていたんですが、オフィスのビルが大きく揺れて命の危険を感じるなかで、「まだ死ねない」「まだやり遂げてないことがある!」という思いが強くなって。その「やり遂げてないこと」を探すために参加した「Schooling-Pad(自由大学)」で、IDEE創業者の黒崎輝男さんと出会って意気投合しまして、社会や働き方について話し合っていたんです。あるとき「そろそろ銀行辞めちゃえば?」という黒崎さんからの電話で、「世の中に“考えること”を発散して仕事にできる場所が無いよね。だったら僕たちでシンクタンク(思考の容れ物)を作ろうよ」と誘ってもらえて。それでMIDORI.soを運営する「MIRAI-INSTITUTE株式会社」を、一緒に立ち上げました。

―そんな経緯があったんですね。では、MIDORI.soという名前にはどんな由来があるのでしょうか?

小柴:建物のファースト・インプレッションそのまんまです(笑)。黒崎さんの知人が「おもしろい物件があるんだよ」って教えてくれたんですけど、それがのちにMIDORI.soの第一号となった中目黒のマンションでした。建物全体が蔦に覆われた姿は廃墟みたいでしたが、電気メーターも回っているし、「どうやら貸してくれそうだぞ」ということが分かった。ただ、私たちがオフィスとして使うだけじゃ勿体ないし、時代的にもこれから会社を辞めてフリーになったり、働く場所を求める人たちが増えるんじゃないかという予測もしていたので、MIDORI.soをシェアオフィスとして貸し出すことにしたんです。様々な仕事/国籍/趣味/考えを持つメンバーが集まり、その混沌を通して「何か」が生まれる……もちろん、あの「トキワ荘」(昭和を代表するマンガ家たちが若手時代に暮らした木造2階建てのアパート)も意識して名付けました。

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MIRAI-INSTITUTE株式会社/MIDORI.soオーガナイザーを務める小柴美保さん

―シェアオフィスの事業は、物件ありきでスタートしたんですね。もともとは他の方が住んでいたのでしょうか?

小柴:1階は大家さんが住んでいて、2階と3階はずっと無人だったのですが、以前は映画監督の園子温さんが住んでいた時期もあったとか。あと、『ロックンロールミシン』(2002年・行定勲監督)のロケ地としても使われていましたね。大家さんはその後もそこに住み続けて、「大手デベロッパーには売らない」という強い意志があったみたいです。売って欲しいという多くの引き合いがあったようですが、全部断って。でも外壁の管理などはほったらかしだから、いろんな鳥が植物を運んできては、蔦がどんどん伸びて今の姿になったそうです(笑)。

中目黒外観

思わず目を引く「MIDORI.so NAKAMEGURO」の外観(画像提供:MIDORI.so)

―MIRAI-INSTITUTEは、2012年の設立から一貫して「より善い未来」を思考・模索されていますね。まもなく10周年を迎えますが、今もっとも大切にしていることは何ですか?

小柴:根幹の部分では、創業当時から変わってないと思います。お金のためだけに働くことへの疑問を持ち、自分たちの未来はどうあるべきか地に足をつけて全身で考え、実際に社会に働きかけるための組織であること。他者への想像力を自身の創造力に変えながら、ひとり一人がより善い生き方を追求すること。そして、より善い生き方を実現するためには、まず「働き方」を変えること。それをMIDORI.soの活動を通して体現しています。

また、2016年に出版した『We Work HERE 東京の新しい働き方100』という本の中でも浮かび上がったことなんですけど、「日々おもしろく仕事ができる環境と、仲間たちがいる空間」というのが働く人々にとって大事なことだと実感していて。だからこそ、環境や気持ちの良い状況を作ることを専門とする人たちが必要だった。その担い手として最適だった一人が、こちらのサキちゃんです。

増田早希子さん(以下、増田):私も以前は大手デベロッパーで働いていて、働き方にモヤモヤすることも多かったんです。それで自由大学で「働き方」の講義を受けていくなかで触発されて、会社を辞めて自由大学の運営スタッフに転職しました。自由大学があったCOMMUNE246(当時)と同じ敷地内に「MIDORI.so Omotesando」もあってよく出入りしていたから、そこで美保さんと出会ったんですよね。そのとき永田町にできるMIDORI.soで働く人を探してると聞いたので、「ヒマだしやります!」と気軽な気持ちで働き始めました(笑)。

でも、やってみたらすごく楽しくて。思い返してみると、前職の時に職場のコミュニケーションが活性化するようなことを考えては勝手に実行していたのですが、これがひとつの仕事として成立するとは思っていなかったんです。それが気が付いたら「コミュニティ・オーガナイザー」という名前でひとつの仕事として成立していたことに感動したし、これは私の天職だなと思いましたね。

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MIDORI.so コミュニティ・オーガナイザーの増田早希子さん

小柴:自由大学側にも「サキちゃんこっちにもらいますね!」って伝えて、引き抜いちゃいました(笑)。もう5年くらい経つのかな? それまでコミュニティ・オーガナイザーという名前すら無かったんですけど、拠点が増えるならちゃんとやらなきゃと思ったんです。

―コミュニティ・オーガナイザーって、具体的にどんなことをするんですか?

小柴:メンバー同士を繋いだり、困ったときに相談に乗ってあげる、なんでも屋みたいな感じです(笑)。プリンターのインクの補充とか事務的な仕事もやりますけど、“コミュニティの質の担保”は大きな役割ですね。MIDORI.soのメンバーはそれぞれが独立していて仕事を持っていることが条件なので、「とにかくMIDORI.soで仕事を見つけたい/稼ぎたい」と考えている人には向かないし、お互いの期待に沿えないと思うので入会をお断りすることもあります。単純にお金を稼ぐためではなく、世の中を良くするために考えて行動し、その結果としてお金がついてくればいい。MIDORI.soには、そんな理念に共感した人たちが自然と集まっています。だからこそ、私たちオーガナイザーもメンバーとは親身になって接していますし、そこに見返りは求めていないんです。

問屋街の伝統と魅力を活かしながら、より開かれた街に

―MIDORI.soとしては中目黒、表参道、永田町に続く4つ目の拠点ですね。馬喰横山を新拠点に決めた理由はどんなことだったのでしょう?

増田:建築家さんとのご縁がきっかけです。私がいま住んでいる家が、建築家の遠藤楽さん(フランク・ロイド・ライトの日本人最後の弟子と言われる)が手がけた住宅をリノベーションしたシェアハウスなんですけど、そこを運営している「勝亦丸山建築計画」の2人と仲良くさせてもらっていて。あるとき勝亦さんが「MIDORI.soと仕事ができたらいいよね」って言ってくれたので、さっそく美保さんにも相談したら、「いいじゃん!」って。勝亦丸山建築計画は、UR都市機構と組んで「さんかく問屋街アップロード」という馬喰町問屋街の都市再生プロジェクトに関わっていたので、そのご縁もあって馬喰横山が候補に上がったんです。ちなみにこの物件もURさんから紹介していただきました。 

問屋街サイト

「さんかく問屋街アップロード」ウェブサイトより

―馬喰横山にMIDORI.soをオープンするにあたって、特に力を入れているポイントは何ですか?

小柴:街の人々を巻き込んでいきたいと思っています。見ての通り絶賛工事中ですけど、外を通りがかる人たちがみんな「ここ何ですか?」って興味を持ってくれるんですよ。今後はアップサイクル(*)のスタジオも常設する予定なので、それこそ問屋街の方たちの知見をお借りして、ワークショップなども開催していきたいです。
*本来であれば捨てられるはずの廃棄物に手を加え、新たな付加価値を持たせることで、別の新しい製品にアップグレードする取り組み

―そのアップサイクルスタジオはBridgineも気になっていました。街の特性を取り入れて開かれた場所になっていくのではと楽しみです。改めて施設の概要を教えてください。

増田:1階には奥渋谷のコーヒーロースター「COFFEE SUPREME TOKYO」さんと、泊まれる本屋「BOOK AND BED TOKYO」さんが手がける新業態店舗「Parlors(パーラーズ)」がオープンする予定です。SUPREMEさんも奥渋谷のコミュニティで中心的な存在ですし、私たちとノリも合うので、ここから新しいカルチャーが生まれるのではないかという期待感がありますね。アップサイクル・スタジオにはシルクスクリーンの機材や刺繍ミシン、3Dプリンターなども置いて、ゆくゆくは一般の方々にも「ものづくり」を体験してもらえるような場所になっていければと。

小柴:そうそう、MIDORI.soは各拠点でランチ会を開いていて、誰でもウェルカムなのでぜひ街の人にも立ち寄ってみてほしいですね!

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「MIDORI.so Bakuroyokoyama」は、もともとゲストハウスだったビルをフルリノベーションしている(画像提供:MIDORI.so)

―日本最大の問屋街として150年以上の歴史がある街ですが、どんな魅力を感じていますか。

小柴:この物件の下見に来たとき、はじめて「CITAN」に立ち寄ったんですよ。そこで「この街にもこんなにクリエイターっぽい人たちがいるんだ!」って驚かされて。歴史ある問屋街でありながら、新しい空気が流れ始めているのを肌で感じて、それから前よりも意識して街を見るようになりましたね。ここはさまざまな人たちが混ざり合っているのが大きな魅力だと思います。

一方で問屋自体はなかなか時代的に難しい業態でもあるので、事業から撤退してビルを手放す人も増えていると聞きます。そこに大手のホテルチェーンやマンションなど“商いの街”とは親和性に乏しいプレイヤーが入ってきているのも事実で、問屋街の方々も街の行く末を案じているようです。そのため一部の空きビルを買い上げて、問屋街の意向に沿う入居者に貸そうというと取り組みをしているのが、先ほどサキちゃんも話してくれたURさん。しかも馬喰横山の担当者さんはすごく懐の深い人で、「おもしろそうなことは何でもやっちゃってください!」というスタンスなので、私たちも全力で乗っかっている感じです(笑)。

表参道

8月末をもって閉鎖した「MIDORI.so Omotesando」。屋上のガーデンは永田町に引っ越したのだとか(画像提供:MIDORI.so)

―古き良き建造物/空間を壊すのではなく、現代に引き継ぐことについて、お二人の考えを聞かせていただけますか。

小柴:身も蓋もないことを言ってしまうと、物件そのものにパワーがあると、私たちが新たに魅力を付加する労力が減るっていうメリットはありますね(笑)。そのままで十分魅力的な場所のパワーを借りるというのも、MIDORI.soの特徴なのかもしれません。

増田:新しいビルってちょっと無機質な感じがするじゃないですか? でも「MIDORI.so Bakuroyokoyama」のような味のあるビルってMIDORI.soのアットホームな雰囲気にもぴったり合うと思っていますね。

小柴:あと家具とかも、いわゆるオフィス家具を使うよりは、自宅のリビングにあるようなテーブルや椅子をあえて仕事に使っていて。だから「居心地がいい」って言ってもらえるのかも。「働く」と「生きる」は同じだよね、っていうことを体現している場所だと思います。

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小柴さんと増田さんが座る椅子は、共同創業者の黒崎さんがポートランドから取り寄せたものだという

コミュニティって、作ろうと思って作るものではない

―コロナ禍によって「どこでも誰とでも働ける」流動的な時代になってきましたが、そんな時代での「場」やコミュニティの価値はどのようなことでしょうか?

小柴:なんだかんだ言っても、人が話し相手とか仲間を求めることって普遍的なんですよね。最近はどこも「コミュニティ作り」を強調していますけど、コミュニティって別に作ろうと思って作るものではないし、仲間の数珠が自然なカタチで繋がっていくことが理想です。

増田:コミュニティ・オーガナイザーとして関わっていて感じるのは、アイディアが思いつくときって何気ない会話がきっかけだったりするんですよね。自宅のリビングみたいなリラックスできる空間だからこそ、ふわっと生まれた話題が思いがけず仕事のヒントになるというか。たしかに家でも仕事はできるんだけど、気分転換も兼ねてMIDORI.soに来てもらえれば、新たな糸口が見つかるかもしれない。そういう「風通しの良さ」は大事にしていきたいですね。

―最近は大手企業が運営するシェアオフィスもたくさん生まれていますが、そのなかでMIDORI.soが他と差別化していることを教えてください。

小柴:いかにシェアオフィスを「自分ゴト」にしてもらうか、を考えて運営していることですかね。やっぱり賃貸で借りているオフィスだと愛着は湧きにくいものなんですよ。そうすると場所を大事にしなくなるし、いつ辞めたっていいやって気持ちにもなっちゃう。でも「ここが自分の場所なんだ」と認識すると、人って自分で居心地を良くしたいと思うし、自分が気持ちよく過ごせる環境にしたいと思うんですよね。そのコミットメント感のようなものを生むように、つかず離れず、メンバーの方々と心地よい繋がりを持つようにしてます。だからMIDORI.soでは、メンバーをルールでガチガチに縛ることはしません。それって結果的に、「場所」に対する主体性を奪うことにもなりかねませんから。

―メンバーの方たちとも、すごく良い関係性を築いていることが窺えますね。

増田:サービスを「提供する側」と「受ける側」っていう関係性ではなくて、メンバーとはすごくフラットで対等というか。一緒にこの場所を良くしていこう! という気持ちを共有する「同志」みたいな感じですよね。もちろん、最低限の礼儀は守りつつですけど。

小柴:その匙加減がすごく重要。「MIDORI.so Bakuroyokoyama」も、そうやって末永く愛される場所になってくれたら嬉しいですね。

<クラウドファンディング実施中>東京日本橋・馬喰横山に誕生するシェアオフィスMIDORI.soで
「新しい生き方、新しい働き方」を探求する仲間を募集。9/30まで。
https://motion-gallery.net/projects/we_create_here

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ヒスト

HYST(増田さん)

馬喰町の週1回・土曜日にだけ開く古物店さん。うちのスタッフにも通っている人がいて、「MIDORI.so Bakuroyokoyama」でもいくつか家具を購入する予定です。

スクエア2

日本橋三越のアンモナイト(小柴さん)

私の祖母がすごく好きな場所で、今でもよく日本橋三越を待ち合わせに指定されます。大理石の壁に見事なアンモナイトの化石が埋まっているんですけど、子供たちより私が大興奮でした(笑)

取材・文 : 上野功平 撮影 : 岡村大輔

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