Collaboration TalkInterview
2022.01.19

紙の卸問屋・中庄×アトリエヤマダによる「紙の遊園地」とは?地域に開き、“ものづくり”の場を作る理由。

紙の卸問屋・中庄×アトリエヤマダによる「紙の遊園地」とは?地域に開き、“ものづくり”の場を作る理由。

日本橋・馬喰町に本社を構え、紙の卸問屋として江戸から現代まで人々の暮らしを支えてきた中庄株式会社。そんな老舗BtoB企業が、クリエイティブチームのアトリエヤマダとタッグを組んでスタートしたのが「紙の遊園地」プロジェクトです。2021年11月には初のイベントも開催され、中でも「チョキペタス図工室」は、中庄本社のショールームを開放して実施されるユニークなアクティビティ。訪れる子供たちが自由に創作できる図工室を始めた理由とは?その活動の先に見据える未来とは? 同プロジェクトを担当する中庄の刑部渉さん、アトリエヤマダ代表の山田龍太さんにお話をうかがいました。

ドイツの見本市で、紙に対する価値観が変わった

―まずは中庄株式会社のことを教えてください。

刑部:1783年に創業した紙屋で、元々は和紙などを取り扱う小売店からスタートしました。その後、時代の変化とともに暮らしの中での紙の役割も変わってきたのに合わせ、現在は“洋紙”と呼ばれる印刷出版用紙などと、“家庭紙”と呼ばれるティッシュやトイレットペーパーなどを扱っています。紙自体を製造しているわけではなくて、主にメーカーさんが作られた紙を出版会社、印刷会社、及び小売店(スーパーマーケットやドラックストアなど) に卸す、中間流通と呼ばれる仕事をしています。

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中庄株式会社の刑部(ぎょうぶ)渉さん

―刑部さんは現在ソリューションデザイン部という部署で「紙の遊園地プロジェクト」や中庄の情報発信を担当されていますが、もともと紙がお好きで入社されたのでしょうか?

刑部:紙は……元々好きだったわけではありません(笑)。そのきっかけになったものが、これです。これは束見本(書籍の作成時に実際と同じ紙や判型で作る確認用見本)に、自分で買った表紙をつけたものなんですが、表紙はホンジュラスの紙で、コーヒー豆からできてるんです。名古屋にある「紙の温度」さんという手漉き和紙や世界の紙など世界各国から約20,000アイテム取り揃えている紙の聖地のようなお店で買ったもので、このお店で紙について勉強させていただく中で改めてその奥深さを知り、そこから紙が好きになりました。

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刑部さんが紙のおもしろさに目覚めたという束見本とホンジュラスの紙

―2021年からは会社公式のnoteやTwitterで紙の魅力や中庄の取り組みについて発信されています。SNSでの情報発信はどんな思いで始められたのでしょうか?

刑部:2019年の1月、ドイツで開催された紙の見本市に連れていってもらって、そこで紙についての価値観が変わったというか、世界にはこんなに紙を素敵に見せてくれる人たちがいっぱいいるんだって気付かされたんです。そこから、『うちももっと発信したらいいんじゃないか』と思うようになりました。中庄では会社の中にいろいろな紙があるのが普通だけど、これって会社の外の人たちにとっては結構価値があることなのではないかと思ったんです。それで紙そのものをどうよく見せるか、紙の魅力をどう伝えるかということをSNSで発信し始めました。最初は発信する情報が誰にとって価値があるのか僕自身もわからず手探りでしたが、徐々にフォロワーが増え、見つけてくれる人がいるということが励みになっています。

note

中庄のnoteでは紙の魅力を発信中(画像:noteより)

モットーは「子供も大人もスタッフも、みんな楽しみながら作る」こと

―続いてアトリエヤマダはどんなことをしているチームなのか教えてください。

山田:アトリエヤマダは『ワクワクをカタチに』をテーマとして、絵の具やダンボールなどの身近な素材を使って子供たちと巨大絵本とか立体空間を作るプロジェクトを主催しています。また地域企業や行政とコラボしたアートイベントなどの企画も手がけています。

―子供を対象にしたプロジェクトをやりたいと考えたのには、何かきっかけがあったのでしょうか?

山田:元々うちは舞台やテレビのセット、映画の美術などを制作する仕事を受けていました。でも設計図を描いてものを作るだけではなく、何もないところからものを作る活動がしたいなとずっと常に考えていました。

子供向けのワークショップは教育的な視点で子供たちに何かしてあげたいっていう気持ちで始めたのではなくて、百貨店からの依頼で「舞台美術の制作をイベントとしてやれませんか?」というお話があって。そこから子供たちと一緒に何かを作るというイベントが始まったんですよ。

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アトリエヤマダ代表の山田龍太さん

―やりたかったことと舞台美術の経験がつながったんですね。アトリエヤマダとして活動する上で大切にしていることは何でしょうか?

山田:『ワクワクをカタチにする』という我々のテーマのとおり、制作のプロセスの中でも子供たちと一緒に遊びながら作るということを大事にしています。私たち大人もスタッフも、楽しみながら、がモットーです。

チョキペタス図工室では、子供たちが大人のお手本

―中庄とアトリエヤマダがタッグを組んで生まれたのが「紙の魅力を再発見する」をテーマにした「紙の遊園地」プロジェクトです。2021年11月には和紙を使ったボードゲーム制作等のワークショップや、体験型のコンテンツなどが楽しめる初の大型イベントも開催され、話題になりました。なかでも中庄のショールームで開催した「チョキペタス図工室」は同イベントではもちろん、定期開催もされている人気イベントです。まず、このプロジェクトが生まれた経緯について教えてください。

チラシ

画像提供:中庄

刑部:先ほどもお話した通り、中庄は物作りができる会社でもないし、これまで流通がメインの会社だったので、会社として一般の方々に何かを打ち出すということは明確にできていませんでした。僕はそれがもったいないなと思っていたので、会社のホームページをリニューアルする話が出た時に、社長に「ブランディングをさせてください」とお願いし、好きにやっていいと言ってもらったんです。それで「紙の魅力を伝える」というコンセプトをプランニングし、SNSも始めました。その中で、中庄のショールームを使って目に見える形で何かをやってみたいなということをぽろっとTwitterで発信したら、山田さんが乗っかってきてくれて、『じゃあ会いましょう』ということになりました。

山田:それまでは僕らは顔見知りでもなくて。ただ、中庄さんが半年ぐらい前からSNSでの発信を強化されて、刑部さんが書かれたnoteは私もアトリエヤマダのスタッフも読んでいてすごく親近感を感じていたので、“いいね”もしてたんですよ。そんな中で刑部さんが『何かワークショップ的なものをしたい』と書かれていたので、『これはうちのことかも?!』と思って(笑)、コメント返信させてもらったのがきっかけです。

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子供たちが図工室で作った作品たち

―なんと、SNS繋がりからの実現だったんですね。山田さんにとって、中庄のどんなところが魅力的に感じられたのでしょうか?

山田:アトリエヤマダでは普段からダンボールなどのその場で加工できる素材を扱っているので、紙は割と身近な存在なんです。それに加えて、老舗企業としての歴史的な重みと、刑部さんの思いのこもった発信内容にすごく好感を持っていたっていうのが大きかったですね。

─「チョキペタス図工室」のコンセプト、「形にすることを目指さない図工室」というのもユニークですね。

山田:一般的に工作ワークショップっていうと『○○を作ろう』というお題や目指す完成形がありますが、チョキペタスに関してはそういう枠組みをできるだけ排除しています。時間の使い方に関してもそうで、たとえば1時間のワークショップの中でやることのお膳立てをしなくてもいいと思うんですよ。素材も道具もいろんなものがあるし、ハサミ一つとってもいろんなバリエーションがありますから、それを見て悩んだり考えたりするだけで、1時間が終わってもいいって僕らは思っています。

―チョキペタス図工室は使える素材や道具も豊富です。中庄が扱う紙の他に、企画趣旨に賛同した企業から提供されたものがあるそうですね。

刑部:山田さんが最初の頃に持ってきてくれたものには、北星鉛筆さんという葛西の鉛筆会社さんが提供してくださった、芯が入っていない鉛筆の端材なんていうのもありましたね。

山田:本来なら捨ててしまう、端っこの方を切り落としたものですね。製造過程でゴミ袋にいっぱい出るんですが、それをいただいてチョキペタス図工室で活用しました。アトリエヤマダはイベント関連業者の知り合いがかなり多いので、イベントで使ったガチャガチャのカプセルとか、設営で使ったS字フックなんかが100個くらい入ってくることもあります。用意できる材料は毎回結構違うので、それも子供たちにとっては『今回はこんなのがある!』『これも使っていいんですか?』みたいな驚きとワクワクになっているようです。

刑部:写真台紙やアルバムなどを作っている柴又の紙の加工会社(「柴又紙工」さん)からは、表装で使うクロスを巻き付ける芯を大量にいただきました。他にも紙を断裁した端切れなど、そういったものをいろいろいただいています。これらはすべて自由に使える素材として図工室のワゴンに置いてあります。切るのも貼るのも、塗るのも折るのも自由です。

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材料の棚には企業から提供された端材や使用済みの小物などが揃う

―中庄は本来BtoB企業ですが、一般の消費者、しかも直接的な購買層にはならない子供を会社に招くイベントを開催することにどんな狙いがあるんでしょうか?

刑部:狙いというとちょっと違うかもしれないですが、子供たちが会社に来てくれて、彼らの声が響く中で仕事をするって、単純に癒しになるんですよね。

それに、子供たちの行動から学ぶこともとても多いので、大人がそれに触れる場を作ることも大切だと思っています。はじめは『何かを作ろう』じゃなくて『何が作れる?』から始まるワークショップって、子供たちは戸惑ってしまうんじゃないかなってずっと思ってました。でもいざ開催してみたら、子供たちって全然戸惑わないんですよ。『紙がかわいい』『端材がかわいい』から始まって、気づいたらもう何かを作ってる。親御さんからはいつも『何を作ればいいんですか』って聞かれるんですけど(笑)、子供たちは別にそんなこと気にせず、楽しいから何でも作っちゃう。その発想力を、大人たちが見るっていうことに意義があるんじゃないかなと思っています。チョキペタス図工室では、子供たちが大人のお手本なんだと僕は感じています。

―お子さんを連れてきた保護者の方からはどんなリアクションがありましたか?

山田:お子さんと一緒に来たのに、気づいたらお母さん1人で夢中になって工作されてる方もいて、そんなところを微笑ましく見ています(笑)。大人になると工作する時間なんてあんまり取れないと思うので、親御さんにとっても楽しく何かを作れる場所になれば嬉しいですね。

自分たちにとっては当たり前だったものが、誰かにとっては新しい魅力になる

―オンラインゲームなど、子供の遊び方も多様になった現代ですが、チョキペタス図工室が今後果たしていきたい役割とは?

刑部:うちも小学生の子供がいて、もちろんゲームも楽しくやっていますが、家で工作をすることもあるし、僕が仕事でやる紙の切り抜き作業を一緒にやったりもします。ゲームにはクリアしたら終わりっていう区切りがありますけど、自分の手を動かしながら何かを作ることって終わりがないんですよね。子供の頃に自分で考えながら何かを作り上げた経験って、きっと将来の仕事にも活きてくると思うので、そういう場を提供していけたらいいなと思います。僕自身もチョキペタス図工室に参加しながら、今度はどういうものを作ろうかなとか、どういうことができるかなってずっと考えながらやっていますから。

山田:これはアトリエヤマダでの活動にも通じることですが、学校の図工ではできないことを伝えていきたいです。学校だと、自分の目の前の机のサイズ以上のものってなかなか作れませんよね。教室の机だったら、A3やA4サイズが最大っていうのが決まってしまう。でもチョキペタス図工室に来たら、自分のキャンバスを広げられます。5メートルの作品を作りたければ作ればいいし、『どうやったら作れるのかな?』という時にはうちのスタッフや私がアドバイスできますので。

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もともとはSNSで繋がったという刑部さんと山田さん

―「紙の遊園地」を開催してみて得たこと、本業の方に還元できたことはありますか?

刑部:まだ具体的に還元された事例はないんですが……既存事業からしてみたら、僕はよくわからないことをしているので同僚たちからは「あいつ何やってるんだろう?」って感じかもしれないですけど、少なくとも楽しそうだなとは思われているみたいで。『紙の遊園地』を通して、中庄という会社や紙の魅力という“自分たちにとっては当たり前だったものが、誰かにとっては新しい魅力である”という視点を会社にもたらして、次のアクションの種になったらいいなと思います。

山田:僕は中庄さんとはパートナーとしてこの仕事を一緒にやらせていただいていますが、ただのクライアントワークにはしたくないと思っています。今後も楽しいプロジェクトとして広げていきたいので、私たち自身がワクワクするかどうかを判断基準に、一緒に楽しみながらやっていきたいですね。

日本橋の企業だけじゃなく、作家や職人とも繋がりたい     

―今回の「紙の遊園地」のイベントでは、地元のプレイヤーを巻き込みながら中庄以外の会場でも展示などを行っていたのが印象的でした。どのように声をかけていったのでしょうか?

山田:アトリエヤマダは大阪のまちづくりにも関わっていて、いろんなお店やギャラリー、市役所などを繋ぐようなイベントを作ってきました。なので「紙の遊園地プロジェクト」を始めることになった時、日本橋でも同じように初回からいくつかのお店などに広げてやってみましょうと提案して、中庄さんにも面白いねと言っていただいて実現しました。

―横山町のギャラリー&イベントスペース「birth」さんも参加されていましたよね。

刑部:birthさんはギャラリーとして気になっていたところなんです。何かのメディアに載ってるのを見て、行ってみたらちょうどテナントも空いていたので、こういうところだったら使えるんじゃないかと。飲食店は中庄の社員がよく行くお店や、声をかけてみたかった場所をまわって、チラシを置いてもらえませんかと直接お声がけしました。

―中庄としてももっと会社を街に開いていきたいと考えているのですか?

刑部:そうですね。先日は小伝馬町で開催された中央区の交流会にも参加してきました。企業よりは個人で参加されている方、町会長さんなどが多かったんですが、僕も「紙の遊園地」について紹介してきました。そういう会に出てみると、街について考えている人がすごくたくさんいるんだなということに気付かされます。会社の中にいるとその街のことってあんまり考えなかったりしますが、そういう人たちが集まる場所で意見交換をするのは、すごく刺激的なことだなと思いました。

―今後は日本橋とどんな風にかかわっていきたいですか?

山田:まず紙の遊園地プロジェクトとしては、もっと日本橋のいろいろなところと積極的にコラボしたいです。日本橋にはおもしろい企業さんだけでなく、作家さんやアーティストの方もたくさんいると思うので、どんどん繋がっていけたらなと思います。また、チョキペタス図工室も日本橋のいろんなところに出張展開していけたら楽しいだろうなと構想しています。

―具体的にコラボしてみたいお相手はいますか?

山田:いろいろアイデアがあるんですよねぇ・・・。例えばこの界隈にはハンバーガー屋さんが多いので、ハンバーガーの包み紙に中庄さんの扱う和紙を使ってもらうコラボとか。あともう一つは、特に老舗の和菓子屋さんや、江戸時代のからくり人形などを作ってる職人さん。アトリエヤマダの技術やアイディアと日本橋のものづくり企業さんや職人さんとコラボすることで、なにか面白いものができないかと考えています。この3年ほどはプロジェクトの種を育てる時期だと思ってるので、中庄さんといろいろと広げていけたらなと思います。

スクエア山田さん

ものづくり企業の皆さん

「チョキペタス図工室」で使用できる端材などの素材や道具を提供してくださる企業さんや、参加してくださるクリエイターさん。図工室の出張依頼も大歓迎です。(山田さん)

スクエア刑部さん

江戸通りの散歩コース

川島紙店さんがあって、小津和紙さんがあって、そこから真っ直ぐ行くと日本橋の中心街に行ける。そこからコレド日本橋、高島屋、三越と見て回るのが好きです(刑部さん)

取材・文:中嶋友理 / 撮影:岡村大輔

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