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2022.06.27

メディアが監修した街イベント「SAKURA FES NIHONBASHI 2022」の仕掛け人たちと振り返る、“街のチャレンジを見せる”お祭りの舞台裏。

メディアが監修した街イベント「SAKURA FES NIHONBASHI 2022」の仕掛け人たちと振り返る、“街のチャレンジを見せる”お祭りの舞台裏。

2022年春、桜の開花とともに日本橋の街を彩った「SAKURA FES NIHONBASHI」。 毎年さまざまな切り口で開催されてきた恒例イベントですが、9年目を迎えた今年も新たなチャレンジが随所に盛り込まれた内容となりました。Bridgineが監修する初のリアル企画でもある今回のSAKURA FES NIHONBASHI。そこにはどんな思いが込められ、街に何をもたらしたのか?同企画のプロデューサー兼Bridgine編集部の丑田美奈子(株式会社コネル・写真中央)の視点も交えながら、アートディレクター・増田総成さん(RABBIT inc.・写真左)、イベント事務局の新井章希さん(三井不動産株式会社・写真右)と振り返りました。

SAKURA FES NIHONBASHIとは?

日本橋の春の風物詩として定着しつつあるSAKURA FES NIHONBASHIは、2013年に日本橋全体の賑わい作りを目指してスタートし、今年で9年目となるイベント。今年は日本橋の豊かな“食”にフォーカスし、「もう一度、美味しいでつながろう。」のコンセプトのもと、名店の美味しさに出会えるお箸のおみくじ「つなぎくじ」、街のプレイヤー同士のコラボで生まれたおみやげ「つなぎふと」の販売、次世代食材の活用にチャレンジして老舗店が考案した「つながる未来弁当」など、計7つのコンテンツが実施されました。

(各コンテンツの詳細はこちらの記事をどうぞ)https://www.bridgine.com/2022/03/17/sakura-fes-nihonbashi2022/

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SAKURA FES NIHONBASHIの会場で販売がスタートした、日本橋のコラボみやげ「つなぎふと」

3/18(金)からの約3週間の会期中、桜の開花も相まって各会場には多くのお客様が来場し、それぞれ好評を博しました。そしてお客様だけでなく、SAKURA FES NIHONBASHIに関わった200を超える街のプレイヤーとの関わりからも、街イベントのあり方・メディアと街の関わり方などにおいてさまざまなヒントが得られるイベントとなりました。

「もう一度、美味しいでつながろう。」というコンセプトに込められた思い

そもそも今回の企画、コロナ自粛も緩和されつつあったとはいえ、集客を伴うイベントを実施するにはデリケートな時期であったことも事実でした。SAKURA FES NIHONBASHI実行委員会の中心企業である三井不動産の新井さんは、その実施判断についてこう語ります。

「桜は春の象徴であり、明るい季節の訪れを告げるもの。日本橋にも桜の名所がたくさんあり、街の人々の心の拠り所です。その中で実施してきたSAKURA FES NIHONBASHIは街を上げて取り組む“文化祭”のような存在でした。ここ数年はコロナの影響で思い切ったイベントができず、その時々で工夫をしながらできることをやってきましたが、コロナ3年目の春はできるだけアクティブな動きを起こしたい!というのが社内で企画に携わるメンバーの共通認識で。今できる最大限の賑わい作りと、コロナ禍を乗り越えてきた日本橋の豊かな人のつながりを可視化する機会を作りたかったんです。」

この考えを受け、今年のイベントのコンセプトは「もう一度、美味しいでつながろう。」に決定。
そこには、食を取り巻く環境が変わった中でも、美味しいものや温かい気持ちを誰かとわかちあう幸せを改めて見つめ直し、新しい形で食を楽しもうというメッセージが込められています。
食を媒介にした、人と人・人と街の新たなつながり方を表現し、来場者に提案する。そんなイベントにしようという思いを共有しながら、企画は進んでいきました。

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三井不動産株式会社 日本橋街づくり推進部の新井さん(写真左)

Bridgineを軸にプレイヤーを巻き込む

そして、Bridgineというメディアが監修に入ることも、今回の企画の大きなポイントでした。
2019年にスタートしたBridgineは、これまで約150の日本橋に関連する記事を公開。“コラボレーションマガジン”として、「日本橋で活動するチャレンジャーたちの思いやヴィジョンを発信し、街に新たなつながりを育むメディア」を目指し取材を重ねてきました。

その中で編集部メンバーが考えるようになったのは、「我々が伝えてきたような数々のコラボレーションや新たなチャレンジを、メディアとして後押しし加速させるような活動ができないか?」ということ。立ち上げから丸3年たったBridgineは、“発信”の次のステージに行きたい!という思いが強くなってきたタイミングだったのです。

Bridgine記事例

Bridgineでは、街のプレイヤー同士のコラボレーションを数多く伝えてきた

かくしてコラボレーションマガジンBridgineならではの、“つながり”“コラボレーション”を誘発する企画がメインとなったSAKURA FES NIHONBASHI。そのアートディレクションを担当した増田さんは、今回の企画を以下のように感じていたと言います。

「僕は大手広告代理店を経て独立しているのもあって、今までたくさんの企画やメディアを見てきていますが、これは他にはあまり類を見ないイベントですよね。取材を重ねる中で獲得してきたであろう、街の “人”にフォーカスした視点がリアルな企画にも反映されているのが実にメディア的で。
それに、Bridgine編集部がこれまで築いてきた街との関係性があるからこそ成り立つ、意思疎通のスムーズさ感じました。たとえば地元の飲食店店主を巻き込んだ「つながる未来弁当」や「店主のおすすめつなぎ」といったコンテンツがありましたが、関係者が多い企画だし正直これは大変そうだな…と思っていたんです(笑)。ところがやってみたらすごいスピードで意見がまとまっていくし、街の人たちがとにかく協力的で本当に驚きました。普通の街イベントだとまずこうはいかないと思いますよ。」

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「人の存在を感じるデザインにしたかった」と、制作物の随所に顔写真を入れたり、店舗を連想するモチーフを入れることにこだわったと言うRABBIT inc.の増田さん

また、事務局が先導するのではなく、主役である街のプレイヤーが自発的に盛り上げてくれる場面もたくさんありました。
「“つながる”というのはすごく日本橋らしくて良いよね。もともと横のつながりの強い街だけど、それを外に見せたり、新しいつながりを生もうとする企画は面白いよ。」
と三四四会(日本橋料理飲食業組合青年部)メンバーよりコメントをいただいたことも。街のプレイヤーの協力の背景には、そうした“つながる”というコンセプトへの共感もあったように感じます。

以下に街の皆さんの取り組みのほんの一部をご紹介します。

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「つながる未来弁当」の販売ブースに立ち、みずからお客様に声をかける三四四会の店主たち

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おみやげ開発プロジェクト「つなぎふと」では、参加プレイヤーらのSNS告知によって多くのお客様が来街した(プロジェクト参加者のSNSより)

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日本橋高島屋本館では、B1の食料品フロアで SAKURA FES NIHONBASHIのキービジュアルを独自に掲出。イベントの盛り上げに貢献いただいた(編集部撮影)

こうした事例を振り返ると、企画メンバーだけでは到底できなかったことが、街のプレイヤーの方々の力が合わさることで広くスケールしたり、密度が濃くなったりしていたのだと実感します。そしてきっと、そのような「自分たちから街を盛り上げよう」とするプレイヤーが多いほど、その街は活気に満ちるはず。そこでBridgineのようなメディアが“街”という視点を持って取材を続けていくことで、取材先の人々に自らが街の当事者だという意識を芽生えさせ、街に目を向け街とつながっていくきっかけを作れるのではないでしょうか。
自ら街に“巻き込まれにいく”プレイヤーの母数を増やすことも、街メディアが果たしていくひとつの役割なのかもしれません。

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ヴィーガンクッキー店「ovgo B.A.K.E.R」は、Bridgineの取材をきっかけに「つなぎふと」の商品開発に参加。(写真は代表の溝渕さん)「老舗の方と組んでみたいという希望が叶い、日本橋で活躍されてる方たちとのつながりもできました。今後は独自にコンタクトして新しい挑戦をしていきたいです。」

“日本橋らしさ”とは咀嚼し更新するもの

しかしもちろん、全てが順調に進んだわけではありません。
とりわけ企画チームを悩ませたのは、“日本橋らしさ”をどう表現していくかということ。

増田:「歴史が深く、豊かな文化が築かれているのが日本橋なので、まずそこは大前提として意識しますよね。ただ今回のようなイベントは、初めて日本橋に来た人や、街への関わりが浅い人もたくさん訪れます。だから、歴史・文化がもたらす重厚なイメージを大事にしすぎて、そういう人たちから距離を置かれてしまうのは避けたかった。伝統的な要素を汲みつつ、多くの人に受け入れられる匙加減で“日本橋らしさ”や今回のコンセプトである「もう一度、美味しいでつながろう。」をいかに表現するか…。これ、なかなか難しいお題でした(笑)。」

新井:「かなり議論しましたよね。一般的にイメージされる“伝統的な要素”にプラスして、街の人たちの横のつながりや、前向きで柔軟な姿勢といった“あまり知られていない要素”をどう表現するか?プレイヤーの個性が光りつつも全体でまとまっている感じをどう出すか?などなど…。それらの要素をまず反映させるものはキービジュアルでしたが、デザインのベースを食べ物のモチーフの集合体にすると決まってからも、順番を入れ替えたりバランスを変えたり、ああでもないこうでもないと言いながら話し合って(笑)。議論の末に皆で作りあげた今回のキービジュアルは個人的にもすごく気に入っています。」

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SAKURA FES NIHONBASHI 2022のキービジュアル

この“日本橋らしさ”の表現は、キービジュアルだけでなく、イベントのコンテンツを考える際にも何度も議論となり、納得いくものに決まるまでトライアンドエラーが繰り返されました。

そしてイベントを振り返って改めて思うのは、この“日本橋らしさ”とは絶えず変化していき、街と人々との相互作用によって形成されていくものだということ。よってそれを表現する際は、先入観を廃し、咀嚼し更新していくことが求められるように感じます。
その意味でSAKURA FES NIHONBASHIとは、春を告げる賑やかなお祭りであると同時に、その年の最新の“日本橋らしさ”を表現するのにぴったりな場なのではないでしょうか。

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世の中に見せるのは“完成されたもの”でなくて良い

では、これからのSAKURA FES NIHONBASHI、そしてBridgineというメディアは、どこへ向かっていくのでしょうか?
今後の展望について、新井さんは日本橋の持つ歴史的なバックグラウンドに絡めて考えます。

新井:「今回のイベントの特徴は、何か大きな目玉企画を置くのではなく、街を舞台に行われているさまざまなチャレンジを並列にコンテンツ化したことです。それはBridgineで取材先の多様な取り組みを紹介するのにもどこか似ていて、完成されたものをドン!と派手に見せるのではない、「こんなことを皆でやってみました」とさまざまな取り組みをお披露目をしているイメージなんですよね。日本橋は江戸時代から続く“チャレンジャーの街”で、この場所から生まれた産業や文化がたくさんあります。現代においても、その一歩目となるような小さなチャレンジが多発するような街でありたい。だからこそ、完成しきっていないチャレンジを見せていくことにはすごく価値があると思います。」

増田:「完成されていない=他の人にも関われる余地が残っている、ということ。さまざまなチャレンジの経過をイベントの場で見せることで「あなたの参加を待っていますよ」という街からのメッセージになるし、新しいプレイヤーとのコラボレーションにもつながるはずです。この“SAKURA FES NIHONBASHI を街のチャレンジをお披露目する場と捉える”ことは、今後力を入れていくべきポイントだと思います。」

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お弁当開発企画「つながる未来弁当」では老舗店主たちがコオロギなどの次世代食材の活用にチャレンジ。開発秘話を語るトークイベントも開催された。

そして増田さんはこのスタンスをメディアにも反映させるべきではないか?と提案します。

増田:「僕はこの企画に携わって、日本橋の新しい動きや街の人の温かさを実感することができたけれど、一方で日本橋に固定化された古いイメージを持っている人はまだまだたくさんいるはず。そういう人たちに今の日本橋のリアルを伝えることはメディアの役目だけれど、必ずしも完成された記事を発信するだけがBridgineではない気がします。生っぽさを追求してラジオやインスタライブなど伝える手段を工夫するのもひとつだし、誰かのチャレンジを密着取材して「頑張ったけど失敗しました!」という結果を出してしまっても良い。そういう良い意味で人間くさい伝え方が、街でのチャレンジのしやすさにもつながっていくんじゃないかと思いますね。」

チャレンジする街の風土を作るには、メディアとして「隗より始めよ」というお話。編集部の一員としても、今後のBridgineの運営を考えるうえで心に留めて動きたい視点でした。


今回のSAKURA FES NIHONBASHIは、街のお祭りのひとつでありながら、街・プレイヤー・来街者・メディアのより良い関係作りに向けて試行錯誤する、実験的取り組みであったように思います。その正解はきっと存在せず、チャレンジし続けることがきっと日本橋を体現することなのではないでしょうか。そしてこのイベントが街のチャレンジの背中を押すと同時に、イベント自体がチャレンジの主体でもあることが、街に愛され街を豊かにしていくカギになるのではないかと感じました。

さて、次回はどんなイベントとなるのか?これからのSAKURA FES NIHONBASHI にご期待ください。

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構成・文:丑田美奈子(Konel)/撮影:岡村大輔

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