「物件ハンター×てく学」の視点で見る、横山町の不動産。物件の隠れた魅力と可能性を発掘する。
「物件ハンター×てく学」の視点で見る、横山町の不動産。物件の隠れた魅力と可能性を発掘する。

問屋が集う街、横山町。このエリアには多くの余白(空き物件)が存在します。
この街の余白を空き物件を探し出し、公開し、使い手を探す活動「物件ハンター」。不動産業の専門家だけではなく、誰でも気軽に不動産に携われる仕事です。「物件ハンター」たちは、自ら街を歩いたり、インターネット上の情報を駆使したり、思い思いにお宝物件を探し出しているのだとか。
今回、この物件ハンターのプロジェクトを主導する唐品知浩さん、物件ハンターリーダー森山真一さんに加え、街歩きの専門家として「てく学」を提唱する飛田瞭さんの3人と一緒に日本橋・横山町の街を歩いてみました。物件ハンターの見ている世界とは?
不動産素人でも物件探しができる「物件ハンター」
―まず、みなさんの自己紹介をお願いします。
唐品:街中で空き物件を探して記事などにし、使い手を見つけ出す「物件ハンター」という活動の発起人で、自身も物件ハンターとして活動をしています。もともとはリクルートで不動産広告営業をしていたのですが、15年働いた後に独立して、地域の課題を面白がって解決する活動をしています。横山町では「+PLUS LOBBY」という期間限定のコミュニティスペースも運営していました。
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物件ハンターのプロジェクトを主導する株式会社パッチワークスの唐品知浩さん
森山:僕は、さんかく不動産日本橋に所属する物件ハンターリーダーとして、物件ハンターさんたちのサポートをしています。不動産業は専門知識も必要なので、物件情報のシステム「レインズ(REINS)」の使い方をレクチャーしたり、実務的なサポートをしています。

物件ハンターリーダーの森山真一さん
飛田:街をてくてく歩きながら学ぶ「てく学」という学問を勝手に作り、イベントを開催しています。専門家をお呼びして解説してもらいながら街を歩いたり、僕が講師となって「街の中から好きな色を見つけて名前をつけてください」とかお題を出して街を歩いたり。街歩きの可能性を広げるような取り組みをしています。
関連記事:「いつもの街がもっとおもしろくなる新学問「てく学」の視点で日本橋を歩く」

「てく学」発起人の飛田瞭さん
―どちらもユニークな活動ですね。物件ハンターはどんな経緯で始まった活動なのでしょうか?
唐品:「+PLUS LOBBY」を始めて横山町の問屋街に頻繁に来るようになって、空き店舗も含めた余白がたくさんあることが気になり、何かできないかと考えていました。
それから、僕の活動の基本的な考え方で、サービスを受ける側と提供する側に垣根を作らないという信念がありました。物件を探す時、基本的には不動産屋さんに行って紹介してもらう人が多いと思うのですが、それももっと曖昧にできるのではないか? と。消費者である街の人々が、不動産を紹介する側にもなれたら、「あれ? あそこ空いてるから◯◯を売る店で埋めたいな」とかって街に関心を持つと思うんですよね。
物件ハンターは、そんな思いをもとに立ち上がった取り組みです。2024年の5月〜6月ぐらいに募集をかけて、エントリーしてくださった方々と面談をして始まりました。活動開始が決まった方々には、基本的な不動産業の情報をインプットしていただくために研修も受けてもらいました。そうして、10月頃から本格的に活動が始まりました。


今回の取材では、実際に横山町の問屋街を周りながら物件を見て回った
―物件ハンター開始から数か月が経ちますが、どんな方が物件ハンターとして活動していますか?
唐品:不動産関連の仕事をしている方もいますが、本業はまったく関係ない仕事だけど、不動産や図面が好きな方が多いです。イベントプロデューサーや社長秘書、カメラマンに作曲家など、全く別分野の方が多くいらっしゃいます。もともとは10人集まればいいなと思っていたのですが、最終的には19人になりました。
森山:「+PLUS LOBBY」の利用者だった方々のなかに興味を持ってくださる方がたくさんいましたね。
唐品:あくまでも自分のペースで好きにやってもらう活動としているので、人によって活動頻度はバラバラです。紹介した物件の契約が決まったら、物件ハンターさんにも報酬が入るので、ちょっとした副業のような感じでやってもらえたらいいのかなと考えています。
飛田:副業だからこそ、物件ハンターさんは無理に売り込む必要がないのが良いですよね。本当に良いと思った物件を紹介するだけで良いというか。
唐品:そうそう。不動産屋さんって「ノルマのせいで無理な営業をかけてきそう」みたいな悪いイメージを持たれがちです。でも、本当はもっと物件探しって楽しいよねという、面白い部分を体験してもらいたいと思っています。

画像提供:エンジョイワークス
利便性以外の、物件の魅力を伝えられる
―今回は物件ハンター×てく学のコラボレーションとして、一緒に横山町の街を巡っていただきましたが、どんな発見がありましたか?
飛田:めちゃくちゃ面白かったです。 今日の街歩きは、専門家をお呼びして開催するてく学に近かったのですが、唐品さん、森山さんから聞いて初めて知ることばかりで。例えば、問屋さん用の一時預かり倉庫は初めて見ました。

唐品:横山町には全国から小売店の方々が仕入れに来るのですが、車で運びやすいように問屋さんたちがこの倉庫に品物を届けてくれるんですよ。各地から人が集まる場所でもあるので、交流が生まれたり少し休んでもらったりできるようなスペースを作りたいなと、僕らも考えているところです。
飛田:他にも、横山町の問屋街の建物は細長いものが多かったり、1階と2階で壁の色など見た目が結構違う建物が多いのも面白かったです。
唐品:オーニングや店舗テントが残っている建物が多いのも特徴的でしたね。問屋さんなので、商品に雨や日差しが当たらないように付いているんだと思うのですが、お店が閉まって空き物件になっても問屋時代の名残を感じますよね。

飛田:こういう街並みになっているのにも歴史と理由があるんだなと感じながら歩けるのが楽しかったですね。
唐品:不動産の観点から見ると、街のルールがよく見えてくるんですよ。僕もそれが面白くてこの活動をやっているところもあります。物件ハンターの人たちも、複数人で街を歩いて物件を探しにいくこともあって、てく学の街歩きと近そうだなと思いました。
飛田:物件に着目した街歩きだったので、ただのお出かけ先というよりは自分が住んだら? とかここで働いたら? といった想像をしながら歩けたのもよかったです。

―歩いている間に、唐品さん・森山さんが街の人々とよくお話しされているのも印象的でした。普段もあんな風に街の人たちとお話ししながら物件ハントしているのですか?
唐品:そうですね。ここで活動をしている間にいろいろな方と知り合いになりました。
森山:今日、途中で会ったお花屋さんも、過去に街歩きのイベントをしているなかで見つけて、その場で話しかけたんですよね。「ここ、何屋さんになるんですか?」とか言って、入っていって。そんな風に、空き家とか改装中の物件を見つけたら積極的に話しかけています。
飛田:今日の街歩きでも、最後に空き物件を見かけて、森山さんすぐに近くに寄って見にいっていましたよね(笑)。


問屋だった物件が、スタイリッシュな飲食店や物販店に変わるケースも多い
―物件ハンターという活動は、街にどんな影響を与える活動だと思いますか?
唐品:例えば間口が狭いこととかエレベーターがないこととか、さっき挙がったような物件の特徴って、普通はあまり理解されないどころか、むしろネガティブに受け取られがちなんですよね。一般的な不動産屋さんは、駅徒歩何分で人通りがどのくらいあるかなどの方が重視され、街の歴史や背景はあまり語らない。
でも、物件ハンターの活動があることによって、もう少し深く街について理解してもらったり面白い物件の使い方を見つけてもらえたりする。より親和性の高い方に街に入ってきてもらえるきっかけを作れるんじゃないかと思います。
飛田:僕は引越し回数が多めなのですが、引っ越してから、建物というより街と合なわかった、と思うことが割とあります。だから、物件ハンターのように、他の角度からも物件を紹介してくれる人がいるのは入居者側としてもとても助かりそうだなと思います。
唐品:そういった、新しく街にやってきた人を、すでに街にいる人たちと繋ぐ役割もしたいですね。問屋さん同士は長い歴史の中で横のつながりがあるのですが、それ以外の住民や働いている人との繋がりが薄いのは課題かなと思って活動しています。
森山:僕は2018年からこの近辺に住んでいたのですが、唐品さんの言う通り、既存のコミュニティにどうやって入って行こうか悩んだんですよね。知り合いもいないし、自分の子どもにも街のお祭りでお神輿を担がせてあげたいけど、どこから自治会に入ればいいのかもよくわからない。そんななかで「+PLUS LOBBY」のおかげでいろいろな人に出会えて救われました。そんな経験をもっと多くの人にしてほしいので、街にかかわるきっかけにもなる物件ハンターを増やしていきたいです。
飛田:実は、僕も物件ハンターになりたいなと思っています。僕がなるんだったら、てくてく系ハンターでしょうか。今日みたいにてくてく歩く物件ハントをしたいな。
唐品:良いですね。散歩するだけでも楽しいし、副業にもなるので、ぜひ!

変化を続けるコンパクトな街
―今回歩いた横山町は、お三方にとってどんな街ですか?
唐品:この小ささというか、声をかけられる人がいっぱいいる感じが好きな街です。東京なのに、東京じゃないみたいな感じがするんですよね。昔ながらの街並みもありつつ、店頭にいるおじいちゃんやおばあちゃんと気軽に話せる、面白い街だなと感じています。中央区、日本橋の中でも他のエリアと少し色の違う街のようにも感じています。
飛田:確かにそうですよね。街歩きのイベントで日本橋を歩いていると少し歩くだけで雰囲気の変わる街に突入することがあって。横山町もまさに他の街と少し違った特色ある街だなと思います。
それから僕は横山町に住んだり、この近辺で働いているわけではないのですが、そんな自分でもわかるくらい、力強いコミュニティのある街だなと思います。新しく横山町に来た人たちも含めて、何かやりたいと思っている人が渦巻いているんだろうなと感じています。
森山:そういう思いがある人が実際にいるからなのか、この数年でもいろいろな取り組み・変化が生まれていると思います。僕がこの辺りに引っ越してきた2018年頃は問屋街は問屋街でしかなくて、飲食店はほとんどないし、日曜日に開いているお店もほとんどなかったんですよ。それがあれよあれよという間に面白いお店が増えてきて、どんどんコミュニティが広がっています。
―横山町だからこその物件ハントとの親和性はありますか?
唐品:日本橋はチャレンジに寛容な街です。物件ハンターの仕組みは地域の人との連携が重要です。そういう意味では、ここでうまくいかなかったら他のエリアでもなかなかうまくいかないと思っています。それに横山町は、中央区の中では比較的、物件の賃料が安いエリアなんです。だから、何か新しいことをする実験の場所としてはちょうど良いんじゃないかなと思っています。
飛田:僕は今日、横山町を歩いてみて、面白い作りの建物が多いけれど同時に色々な使い方ができそうだなとも思いました。本屋さんにもできそうだし、コーヒー屋さんにもできそうだし、撮影スタジオみたいにもできそうだし……。それぞれに物件ハンターさんの目を通すことでユニークな使い方が提案されそうだなって感じています。
唐品:そうですね。だからこそ、多様な分野の物件ハンターに参加してもらいたいです。
―今後、この街がどんな風に変化していくことを期待しますか?
唐品:先ほど森山さんが言ってくれたように、いろいろな面白い人たちが街に入ってきてくれているので、この流れがもっと広がったらいいなと思います。問屋さんもちゃんと機能しつつ、他にも面白いお店が増えてくれたら街としても進化できると思います。
森山 :徐々に変化してきてはいますが、ここは他のエリアから人がいっぱい集まる街ではないと思うんです。例えば下北沢のように人がたくさん来る街を目指すよりも、時々ふと行ってみたいなと思ってもらえるような街になっていくといいなとは思います。
飛田:このエリア独特の雰囲気があって、それが魅力だとも思うので、森山さんがおっしゃるように必ずしも人がたくさんくれば良いというわけではないというのもわかります。横山町を歩いているとなんだか時間がゆっくり流れているように感じるんですよね。だから、僕のように外から遊びに来る人間としても、バランスを保ちながらより面白い街になっていったら素敵だなと思います。
唐品:そうですね。大規模施設とかができるよりは、小さくて面白いお店、面白い人たちがバラバラと集まって来るといいですよね。そのためにも、横山町ならではの、一見使いにくい物件を魅力的に紹介して使い手に繋げる、物件ハンターの活動を続けていきたいと思っています。

物件ハンターについて
https://enjoyworks.jp/times/069/
てく学について
Instagram:
https://www.instagram.com/tekugaku/
2/15(土)、東京高円寺古民家を舞台に、3日間だけ開かれる対話と五感の空間に出展
詳しくはPeatixより