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2026.09.16

日本橋を歩いて、聴いて、話して、作品へのインスピレーションを育む。「Pentel × Mural Rookies Project 2026」ワークショップレポート。

日本橋を歩いて、聴いて、話して、作品へのインスピレーションを育む。「Pentel × Mural Rookies Project 2026」ワークショップレポート。

「ぺんてる」発祥の地・日本橋を舞台に、若手壁画アーティストの発掘と育成を行うアートプロジェクト「Pentel × Mural Rookies Project(Pentel ミューラル ルーキーズ プロジェクト)」。文具・画材メーカーのアストラム株式会社(旧ぺんてる株式会社)が、アートホテルを運営するBnA株式会社、アーティストとビジネスをつなぐTokyoDex株式会社とともに2024年から続けてきた取り組みで、今年で3回目を迎えました。

2026年7月23日・24日の2日間、選出された4組のアーティストと運営チームは、壁を描く前に、まず日本橋という「まち」そのものに向き合うオリエンテーション/ワークショップに参加しました。この記事ではその2日間の様子と、これからの展示に向けて進んでいく壁画制作プロセスについてレポートします。

Pentel × Mural Rookies Projectとは?

Pentel × Mural Rookies Projectは、ミューラルアート(壁画)を通じて世界へ羽ばたく若手アーティストを支援する育成プログラムです。2024年のスタート以来、日本橋エリアの壁面をアーティストに提供し、街と人をアートでつなぐことを目指してきました。3回目となる今回は290組を超える応募が集まり、選出されたのは戸奈さくら、文字8フレッシュ!、SARU1、阿部くららの4組です(敬省略)。制作をサポートするメンターは、2025年から続けて務めるアーティストの澁谷忠臣氏です。

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photo:公式サイトより  制作アーティスト:戸奈さくら  制作場所:「BnA_WALL」(大伝馬町) 千葉県出身。東京藝術大学油画専攻卒業。 装飾モチーフや多彩な色彩を用いて、独自の世界観で現代における普遍的なユートピア像を探究している。学生時代にレストランやバーでの壁画制作を経験し、都市や人の移動の中に自然に存在する公共的な表現に魅力を感じている。現在は絵画制作を軸に、デザインなど新たな分野にも取り組んでいる。

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photo:公式サイトより 制作アーティスト:文字8フレッシュ! 制作場所:「THE A.I.R BUILDING」(日本橋本町) 主な活動としてファッションブランドやミュージシャンへのグラフィックワーク、子ども向け教材のイラスト提供等。GARDELiONドライバー / THEXブレイカー / NUEZZZスリープキーパー / TiMEMAXERASアーキテクト / バケツ隊キャプテンなど、制作活動を幅広く展開。おしゃれレーダー調整中。100レコ航海遭難中。ネコとネズミとタコが好き。モジパチです。

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photo:公式サイトより 制作アーティスト:SARU1 制作場所:日本橋本町の工事用仮囲い 2020年から北海道小樽市を拠点に本格的に活動を開始。絵画、アニメーション、壁画、布、立体作品など複数のメディアを横断しながら制作を続けている。 現在は、人類700万年と個人80年という異なる時間尺度を往復しながら認識のあり方を探る『PEOPLE』と、記憶や感情など目に見えないパーソナルな内面の世界を扱う『POOOOL』を軸に活動している。

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photo:公式サイトより 制作アーティスト:阿部くらら 制作場所:日本橋本町の工事用仮囲い 東京都出身。2018年より活動を始める。ランウェイを歩くファッションモデル、風景、フィクションの事故現場などから切り取ったイメージを絵画作品へ展開する。キャンバスを使った絵画のほかに、映像制作やライブ会場でのデジタルペインティングなども行う。現在は映像制作会社に勤めながら制作活動を続けている。

そして今年から新たに加わったのが、制作に入る前の2日間のオリエンテーション/ワークショップです。プログラムの設計・デザインと講師を務めるのはアーバニストであり、都市体験のデザインスタジオfor Citiesの石川由佳子さん。「自分たちの手で都市の暮らしをつくる」ことをモットーに、これまでも国内外の多くの都市で市民主体のまちづくり活動の支援や、都市のリサーチを行っています。アーティスト自身が作品を展示する土地への理解を深めるべく、日本橋の人々との対話や街の観察を通じて、「この土地らしさ」を掴んでから壁というキャンバスに向き合います。壁画は完成後、街の景観の一部として公開され、10月下旬ごろまで日本橋エリアを巡る作品として来街者の目に触れる予定です。

DAY1_AM:「まちに身体をなじませる」街歩き

初日の午前は、「まちに身体をなじませる」と題した3つのエクササイズからスタート。テーマはどれも共通していて、頭で日本橋を理解する前に、まず“自分の身体で”日本橋を感じるということです。

最初の「シティ・スキャニング」は15分間、目的地を決めずにひたすら街を歩き続けるエクササイズです。歩きながら気になったものや目にとまったものを、あまり考えずにスマホで撮影していきます。15分が経ったら、自分が一番居心地よく感じた場所に戻ります。

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続く「“ベスポジ”陣取り」は、その居心地のよい場所にマスキングテープで自分の陣地を区切り、20分間そこに留まって過ごすワーク。座った場所から見える音・光・風・匂い・人の流れなど、自分の身体が感じたことをワークシートに書き出していきます。日本橋という土地を、資料やデータではなく、自分の五感を通した記録として持ち帰る時間です。

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最後の「まちのマテリアル採集」では、壁や地面、マンホールなどの質感を紙にこすって写し取る「フロッタージュ」、風景や建物から街を象徴する色を見つける「カラーコレクション」、そして持ち帰れる自然物を集める「素材採集」の3つを、30分かけて行いました。参加者たちが見つけた色や質感は、「CITY COLOR COLLECTION」として1枚の作品にまとめられました。

そしてアーティストたちは3つのエクササイズ後に再集合し、それぞれが見つけた街への視点をめぐるミニツアー形式で発表しました。

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DAY1_PM:「まちの土台を知る」トークプログラム

午後は一転して、日本橋を知り尽くした3人のゲストを招いたレクチャー&対話の時間となりました。「なぜここに日本橋が生まれたのか」という土地の成り立ちの話から始まり、大伝馬町の歴史、町人文化、そして今の暮らしまでを、約2時間かけてたどりました。

イントロでは、石川さんから「日本橋の地形・自然・土地」の視点でお話がスタート。この街の東京がかつて湿地帯であり、江戸時代の埋め立てによって「水の都」が形づくられていった経緯が紹介されました。

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続いて大伝馬町の町会長を務める瀧健太郎さんが、「日本橋の歴史と文化」について語ります。日本橋がかつて独立した「区」であったこと、福徳の森にある薬祖神社という薬の神様がまつられ古くから製薬会社が多かったこと、またほかにも神社が44箇所もあり、それぞれのそれぞれの氏子による祭りが今も盛んに続いているといった歴史的背景が紹介されました。また、江戸時代には魚河岸があったほか、人形町の吉原遊郭、歌舞伎の市村座・中村座を有する芝居町でもあったことから「一日に千両が動く」と言われた繁華な街だったことなど、文化・経済の話にも触れられました。

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次に登場したのは、伊場仙(いばせん)の代表であり日本橋みゆき通り街づくり委員会の会長も務める吉田誠男さん。創業400年を超え、かつて浮世絵の版元でもあった伊場仙の視点から「日本橋の美意識」にまつわる話が展開されました。歌舞伎役者のブロマイド的な役割を担って浮世絵文化が発展したこと、絵師・版元・彫師の分業体制で一枚の浮世絵が生まれていたこと、そして人気を得るために誇張や模倣も少なくなかったという裏側も語られました。版元同士の力関係や、幕府との駆け引きが作品に影響を与えていたエピソードも印象的でした。現在は江戸扇子とうちわを扱う伊場仙は今も続く老舗として、その歴史を伝えています。

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最後に、鰻店いづもやの三代目である岩本公宏さんが、日本橋の「人々の暮らし」の変遷を語りました。本石町に位置するいづもや周辺は、バブル期の建て替えラッシュを経て今のビル街になる前は木造二階建ての家々が並んでいたこと、マンションの増加によって人口は増加傾向にあり、特にファミリー層が増えていることなどが紹介されました。また歴史的には江戸の頃から日本橋があらゆるもの(古着・灰から排泄物まで!)をリサイクルする街として機能し、多くのユニークな職種が生まれる場所だったこと。その可能性に大志を抱いて集まった人々が、この街をつくってきたという言葉が、参加者の印象に残ったようです。

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セミナー後の振り返りでは、参加者から「自身の住む地域との共通点や違いを知れて新鮮だった」「町の名の由来から浮世絵の上品なエロティシズムまで、想像力を刺激された」「日本橋は格式の高いイメージがあって身構えていたが、実際は良い意味で“俗っぽく”、生活に根差した懐の深い街だった」「スマホで何でも調べられる今だからこそ、実際に人から歴史を聞く体験の価値を感じた」といった声が上がりました。

また、この日の締めくくりに、TokyoDexのダニエル・ハリス・ローゼンさんが合流。壁画制作のレクチャーをおこない、2日目への橋渡しの時間となりました。

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DAY2:「まちの物語を紡ぐ」ワークショップ

2日目は座談会形式のワークショップが開催。古くから日本橋に暮らす人や働く人が持ち寄った写真や情報を手がかりに、当時の暮らしやまちの記憶を語り合う時間となりました。

冒頭は今回ぺんてるから提供される画材の説明があり、アーティストたちは思い思いに試してみるところからスタート。そして、この日のゲストである中華料理店「大勝軒」の三代目であり日本橋本町一丁目町会・町会長も務める高橋一祐さんと、松楽軒の取締役で室町一丁目會青年部・副会長も務める石原次郎さん、日本橋本町二丁目自治協会・会長を務める小西茂之さんが登場します。

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皆でテーブルを囲み、ゲストが持ち寄った昔の日本橋のアルバムや古地図を広げながらかつての街の様子が語られ、参加者たちは感心したり笑顔になったり。生活者一人ひとりの記憶という具体的な手触りが重なり、アーティストたちが日本橋を見る視点は、このワークショップでさらに深まっていきました。

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後半は、2日間のプログラムで得た体験や情報をもとに、TokyoDexの「Vision Art Workshop」を通して、それぞれの視点を表現へと発展させていく時間となりました。
今回壁画を制作する4名のアーティストに加え、ぺんてるの社員も参加。色画用紙やさまざまな素材を使って実際に手を動かしながら作品を制作したり、キーワードを付箋に書き出したりと、感性やアイデアを形にしていきました。
このワークショップの講師を務めたのは、TokyoDexのダニエル・ハリス・ローゼンさんと會澤絵理さん。参加者が2日間を通して観察し、感じ、考えたことを整理しながら、それぞれのアイデアを視覚的な表現へと落とし込んでいくプロセスをサポートしました。

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今、4組は制作の真っ最中

この2日間のオリエンテーション/ワークショップを経て、4組のアーティストはいよいよ日本橋の「壁」と向き合いはじめました。制作期間は2026年9月23日までの予定です。BnA_WALLでは高所作業車を使い、H6m×W6mの石膏ボードの壁に戸奈さくらが「Colors of the City」を、THE A.I.R BUILDINGではH4m×W9mの仮設ベニヤ板に文字8フレッシュ!が「Sounds of the City」を、日本橋本町の工事用仮囲いではSARU1と阿部くららがそれぞれH3m×W12mの壁面で「Connections of the City」を描いていきます。

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制作にはぺんてるのスクールガッシュやネオセーブル、パステルなどが使用される予定で、メンターの澁谷忠臣氏がラフ画から現場まで一貫してサポートします。制作の様子や完成作品は追ってBridgineのFacebook等でも更新していきますので、どうぞお楽しみに!

▶︎BridgineのFacebookはこちら

ーInformationー

9月25日(金)にはBnA_WALLにて開催されるイベント「This&That」にて「Pentel × Mural Rookies Project」による4名のアーティストの新作壁画をお披露目します。(今回で50回目を迎える「This&That」は16年にわたり育まれてきた音楽、アート、クリエイティブが交差し、新たなエネルギーが生まれる一夜です。)また、1Fロビーにはぺんてるブースを設置します。
「Pentel × Mural Rookies Project」でアーティストの皆さんが実際に使用したぺんてるの画材を展示するほか、さまざまなアート製品を実際に手に取ってお試しいただけます。どうぞお気軽にお越しください。

▶︎9/25のイベント「This&That」の詳細はこちら

なお、完成した4作品は、2026年10月下旬ごろまで日本橋エリアの景観の一部として公開される予定です(スケジュールは前後する場合があります)。BnA_WALL、THE A.I.R BUILDING、日本橋本町の仮囲いの3カ所を巡れば、江戸から続く水運の街・日本橋の記憶と、若手アーティストたちが切り取る日本橋の両方に出会えるはずです。

期間中は初秋の日本橋へぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。

取材・文:丑田美奈子(Konel)  
photo:Daisuke Murakami ※DAY1_PM photo:隼田大輔(幽玄舎)

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