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2022.05.25

老舗×次世代食材のタッグで、“お弁当”を通して未来の食を考える −SAKURA FES NIHONBASHI 2022連動イベント「未来クロストーク」レポート−

老舗×次世代食材のタッグで、“お弁当”を通して未来の食を考える −SAKURA FES NIHONBASHI 2022連動イベント「未来クロストーク」レポート−

SAKURA FES NIHONBASHI 2022で限定販売され話題となった「つながる未来弁当」。食にまつわるさまざまな問題の解決手段として注目される“次世代食材”の可能性を引き出すべく、日本橋の名店の料理人たちがコラボにチャレンジして完成させたのがこのお弁当です。 4/2の販売開始に合わせて「誠品⽣活⽇本橋」で開催されたトークイベントでは、メニュー開発を担当した蛇の市本店(寿司)の寳井英晴さん、⽇本橋ゆかり(和食)の野永喜三夫さん、そして食材提供をした株式会社グリラスの渡邉崇人さんの3人で、お弁当開発の舞台裏や未来への⾷についてのトークが繰り広げられました。 飛び入り登壇や驚きの試食もあり、大いに盛り上がった当日の模様をダイジェストでお届けします。

「つながる未来弁当」プロジェクト発足の経緯

近年、フードビジネスの世界でも意識されるようになった「サステナビリティ=持続可能性」。その実現のためのカギとなるのが、最新のテクノロジーを駆使することによって、まったく新しい形で食品を開発したり、調理法を発見したりする技術“フードテック”です。
たとえば環境負荷の低減を目指し、食品ロスになってしまう材料を活用して生産された循環型の食材や食品「サーキュラーフード」や、各種代替食品などもそのひとつ。

そして今回、SAKURA FES NIHONBASHI 2022のコンセプト「もう一度、美味しいでつながろう」のもと、食にまつわるさまざまな企画を検討する中で、こうした次世代の食材の可能性を引き出し、身近に味わえるような提案ができないか?というアイデアが出されました。
そこに強力なパートナーとして手を挙げてくれたのが日本橋の老舗の店主たち。次世代食材を老舗がアレンジするというコラボにより完成した「つながる未来弁当」は、日本橋の飲食店同士をつなぎ、食の現在と未来をつなぎ、食べた方と次世代の食材をつなぐ、さまざまな意味が込められた企画なのです。

フードテックとは?

クロストークではまず、ここ最近耳にすることが増えた“フードテック”について、渡邉さんより解説がなされます。

「グリラスでは、食品ロスを餌に育てたコオロギを、新たなタンパク源として食用に生産し新しい食の循環を生み出すことで、世界の食料危機に貢献しようと活動しています。私はコオロギの研究を始めて17年目になりますが、ほかにも持続可能性を追求した食材がたくさん出てきていますね。こうした分野も含め“食を科学する”のがフードテックなのです。たとえば近年どんどん美味しくなっている冷凍食品も、味や保存方法を科学したフードテックのひとつ。意外と皆さんの身近なところにあるテーマなんです。」

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株式会社グリラス代表の渡邉さん。昆虫の発生・再生メカニズムが専門で、コオロギの大規模生産、循環エコシステムの開発を行う。徳島大学大学院バイオイノベーション研究所・講師を兼務。自身にとってコオロギとは何か?との質問に「人生の一部ですかね」と応えた、情熱あふれる研究者。

そして、グリラス同様にフードテックの領域で活躍する複数の企業から、今回のお弁当開発の材料として提供されたのが以下の食材。グリーンミート(植物肉)、野菜粉末(ロス野菜を細かいパウダー状に加工したもの)、コオロギエキス、コオロギパウダーが、店主たちの手によって美味しい料理に変身したのです。

クロストークスライド投影資料

(画像提供:(左上から時計回りに)グリーンカルチャー株式会社、株式会社グリーンエース、株式会社グリラス)

老舗のチームワークで作られた、とっておきのお弁当

続いて話題はお弁当開発に関する内容に。
試作がスタートするにあたり、虫が苦手な寳井さんには動揺もあったようでした。

「初めて話を聞いた時には、うちは寿司屋だしコオロギはちょっと・・と思いましたが(笑)、ほかにも食材の選択肢をいろいろいただいたので、グリーンミートを使った巻き寿司「グリーンミートのカリフォルニアロール」を作ることにしました。とはいえ完成に至るまでには結構苦労しましたね。」

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蛇の市本店の寳井さん。「最初は店で出している巻き寿司にいかに近づけようかと考えていたが、途中から“未来の寿司”としてどうグリーンミートを活かすかという考えに切り替えた。その結果出来上がったのがこのカリフォルニアロール。赤酢を使ったシャリは蛇の市の江戸前寿司の特徴です。」

対する野永さんは以前から昆虫食に興味があったそうで、

「せっかくだからたくさん取り入れてやろうと思って、コオロギエキスとコオロギパウダー、グリーンミートも使った「コオロギ茶碗蒸しのグリーンミートあんかけ」を作りました。日本橋ゆかりでも幅広い世代に人気のある茶碗蒸しという料理を通して、多くの人に「コオロギって意外と美味しいんだ!」と思ってもらうことを目指しました」

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日本橋ゆかりの野永さん。「「コオロギ茶碗蒸しのグリーンミートあんかけ」はコオロギエキスとパウダーを入れた茶碗蒸しにグリーンミートで作ったそぼろの餡をかけたもの。コオロギだと伝えずに食べてもらって驚かせたいですね。」

そしてここで、この日会場に来ていた高嶋家(鰻)の鴛尾明さんとビストロサブリエ(洋食)の今野登茂彦さんにも声がかかり、お二人が飛び入り登壇。
担当した料理のこだわりを話していただきました。

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急遽登壇した高嶋家の鴛尾さん(左から2人目)とビストロサブリエの今野さん(左から5人目) 鴛尾:「グリーンミートと他の材料の配分に苦労しました。鰻は限りある資源なので、今回の企画は未来のことを考えるきっかけにもなったように思います。」 今野:「緑の野菜クレープの中にカボチャのババロアとトマトのカスタード、真ん中にいちごが入れてあります。“野菜嫌いの人でも食べられるデザート”を目指しました。」

今回、最初に前菜・メイン・デザートなどの分担をしたあと、お互いに相談しながら試作を繰り返したという4人。素晴らしい連携でお弁当作りが進んだのも、もともとこの4人の店主が日本橋料理飲食業組合青年部である「三四四会」のメンバーとして強いつながりがあったから。このチームワークと積極性に対しては渡邉さんも驚いたそうで、

「伝統のある名店の方々って、わりと保守的な方々が多いのかなと思っていたのですが、とんでもなかった。皆さん新しいことに対してとてもアグレッシブだし、相談しながらいろいろなアイデアを出してくださったようで嬉しかったですね。」

とコメント。伝統を守りながらも新しいことにチャレンジを続ける、日本橋の飲食店らしいお弁当企画だったのではないでしょうか。

※4人の店主のメニュー開発に関する対談記事はこちら
https://www.bridgine.com/2022/03/30/mirai-bento/

つながる未来弁当

完成したお弁当がこちら。左上より時計回りに「グリーンミート鰻のひとくち重 」「いちごの野菜クレープ包み」「コオロギ茶碗蒸しのグリーンミートあんかけ」「グリーンミートのカリフォルニアロール」

いざ、試食!

この日初めて「つながる未来弁当」の完成形に対面した渡邉さん。
楽しみにしていたという試食タイムです。

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お弁当を試食する渡邉さん。美味しさが伝わってくる表情を見て、店主たちも嬉しそうだった。

お弁当を食べ進めながら、渡邉さんに「普段あまりやったことがない(笑)」という食レポをしていただきました。コメントに対して各店主からさまざまなアイデアも飛び出します。

渡邉:「「グリーンミートのカリフォルニアロール」は全然違和感がないですね。普通に美味しいカリフォルニアロールという感じ。お寿司とグリーンミートが合うというのは発見でした。」

寳井:「そうなんですよね。これを作りながら、肉だけでなく“グリーンフィッシュ”もあったら、我々も未来の寿司作りに向けてまた新しいものが開発できるんじゃないかなと思いました。」

渡邉:「それはまさにフードテックの領域ですね。事業者さんに「次は魚だよ!」と伝えておきます。3Dフードプリントの技術も進化してきているので、食感の再現などもできる気がしますね。
あと、この「コオロギ茶碗蒸しのグリーンミートあんかけ」は、僕の知ってるコオロギじゃないです・・・これは驚きました。旨味が強いですね。」

野永:「コオロギのエキスを味見した時に、これは出汁に使えるなと思って。だったら出汁の旨味を味わう茶碗蒸しにしようと思ったんです。コオロギエキスはもはや調味液ですね。これ、コラボして新しい調味料として売り出せるんじゃないですか?」

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渡邉:「それは面白いし心強い!ぜひ引き続き相談させてください。そして「グリーンミート鰻のひとくち重 」もまた完成度が高いですね。山椒が効いていて本当に鰻を食べている感じ。」

野永:「それ、コオロギパウダーを“追いパウダー”しても香ばしさが増して美味しいかもですね。」

渡邉:「なるほど、“追いパウダー”ですか(笑)。これまた商品化のアイデアになりそうです。
最後はデザート「いちごの野菜クレープ包み」ですが、普段あまり甘いものを食べない僕でもこれは甘すぎなくて美味しくいただけました。見た目も鮮やかですし。」

今野:「ありがとうございます。もともとのパウダーの酸味が少なく上質なうえ、すごくアレンジの効きやすい素材なので、これは家庭でも取り入れやすそうだなと思いました。」

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お弁当に使われた次世代食材のパッケージの一部。今後一般に普及していくことが期待される

未来の“美味しい”に向けて

クロストークの最後は今後についての話題になりました。

「私たちがこれから家庭でできる“地球にやさしい食生活”とは?」との質問に、渡邉さんは以下のようにコメント。

「まずは食材を食べ切る、大切にするということが一番です。そのうえで興味を持っていただけたら、ぜひコオロギ製品にもチャレンジしてみてほしいですね。今回お弁当に使われたもの以外にもフードテックが活かされた食材はたくさんあるので、皆さんが手に取ることでもっと一般的になれば良いなと思います。三四四会さんでも今後もぜひ活用いただきたいです!」

そして三四四会のお二人にも多くの学びのある企画となったようです。

野永:「食の世界は、商品+アイデア+発信の組み合わせによって、無限の可能性が広がると思っています。“いただきます”で始まり“ごちそうさま”で終わる、食べることの幸せを子供たちにつないでいくために、ひとつの形を示せたのはすごく良かったと思います。」

寳井:「三四四会の仲間と一緒に工夫を凝らしながら楽しく試行錯誤しました。うちは100年以上営業してきましたが、今回の企画で未来のことを改めて考えました。引き続きコラボレーションの力で次の100年へと歩みを進めていきたいですね。」

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テレビ取材も入り、各所で話題となった「つながる未来弁当」。コレド室町テラスの大屋根広場の販売会場には、4人の店主も応援に駆けつけた。

力強い言葉で締め括られた今回のクロストーク。横のつながりと連携、そして新しいことへの挑戦により長い歴史を作ってきた、老舗ならではのマインドが垣間見えました。

これからの“日本橋の食”がどんな展開を見せ、未来に向けて発展していくのか?ぜひ引き続きご注目ください。

<構成・文>丑田美奈子(Konel)・<撮影>岡村大輔

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