Collaboration TalkReportInterview
2022.08.31

910日ぶりのリアル開催。「アサゲ・ニホンバシ」の次世代メンバーがデザインする、働く場所とワーカーをつなぐ未来。

910日ぶりのリアル開催。「アサゲ・ニホンバシ」の次世代メンバーがデザインする、働く場所とワーカーをつなぐ未来。

早朝7時45分スタートという時間帯ながら、毎回多くの人々が集まり日本橋の朝の人気イベントとなった「アサゲ・ニホンバシ」。老舗企業と新進プレイヤーのそれぞれからゲストスピーカーを招き、そのトークを聞きながら地元飲食店の美味しい朝餉(あさげ)をいただく同イベントは、街のワーカーや地域住民の交流の場になっています。コロナ以降はオンラインで開催をするなど工夫しながら活動を続けてきましたが、このたび910日ぶりのリアルイベントとして復活。今回は当日のイベントの様子とともに、同イベントの主催団体・日本橋フレンド代表の清水拓郎さん、事務局メンバーの中岡映治さん、成澤勝さんへのインタビューの内容をお届けします。

第93回アサゲ・ニホンバシ、久々のリアル開催

7月22日(金)、日本橋三井タワー内にあるアゴラ・カフェにて、第93回「アサゲ・ニホンバシ」が開催されました。会場には開催を心待ちにしていた50名の参加者(コロナ対策のため、通常の約半分に定員を絞って開催)が続々集まり、「初めまして。」「久しぶり!」と声を交わす風景が見られました。

02

イベント冒頭では「7秒で自己紹介タイム」が設けられた

アサゲ・ニホンバシは毎回、日本橋で100年以上続く老舗=「マエヒャク(前の100年)」と、ベンチャー企業やクリエイター、アーティストなど街に新たな風を吹き込むプレイヤー=「アトヒャク(後の100年)」という2名のゲストスピーカーが迎えられます。
今回は株式会社にんべんの髙津社長と株式会社テンフィートの阿部社長のお二人が登壇しました。

<マエヒャク:株式会社にんべん 代表取締役社長 髙津 伊兵衛氏>

マエヒャクとして登壇した髙津さんのトークテーマはずばり「襲名について」。創業320年を超える老舗鰹節専門店、にんべんならではのテーマです。2020年に髙津“克幸”から第13代“伊兵衛”へと襲名を果たした髙津さんが、その具体的な手続きの方法や、襲名したあとの心境の変化などをスライドを交えながら紹介。とてもリアルで髙津さんにしか語れない話題に、参加者の方々は興味津々です。

03

伊兵衛という新しい名前が気に入っているという髙津さん

襲名に際しては、同じく日本橋で襲名をした老舗菓子店「榮太樓總本鋪」の故・細田安兵衛さんに大変お世話になったと話す髙津さん。髙津さんは細田さんを“日本橋のおやじ”として慕っていたと言い、そのような家や世代を超えた交流が日本橋にはたくさんあるそう。また、日本橋の襲名者はほかにも各年代にバランスよく存在するため、“おやじ”たちが次の世代を教え育んでいく流れを自らも継承していきたいと語りました。

04

トーク後にはスタンディングオベーションも

<株式会社テンフィート 代表取締役 阿部 圭一氏>

続いてアトヒャクとして登壇したのは、ネットメディアでの番組制作等を得意とする映像制作会社・テンフィートの代表・阿部さん。日本橋を拠点に事業を展開してきた自身の経験をもとに、“いかに街に溶け込みながら活動をするか”をテーマにお話をされました。

06

「受け身で流されてきて今に至り、日本橋で活動している」と自身を紹介しながらも、そのお話には日本橋愛が溢れていた阿部さん

阿部さんからは日本橋での取り組みのひとつとして、さまざまな人気声優とともに番組を作る自社コンテンツ「Phonon チャンネル」の事例が紹介されました。同チャンネルでは、コロナ禍で休業していた日本橋の飲食店を動画の撮影場所として借り、番組で紹介。このことで阿部さんの事業と街との新たな接点が生まれたほか、飲食店には声優ファンという新たな客層を呼び込むことにもつながったとのこと。
また、企業として街と一緒に何かを取り組む際は「日本橋で何か仕事を作っていこう!」という姿勢で入るよりは、まずはお酒の席などカジュアルな場で街の人たちと関係性を作ってから臨んだ方が、楽しくスムーズに活動できるのではないかと語り、会場の共感を呼んでいました。

05

今回提供された朝餉はにんべんが運営する「日本橋だし場」の「かつぶしまぶしおにぎりセット」。だしの良い香りに朝から癒される

リアルの「場」が持つパワーを分かち合いたい

イベント後は場所を変え、アサゲ・ニホンバシを主催する日本橋フレンドの清水拓郎さん、成澤勝
さん、中岡映治さん(オンライン参加)にインタビューを決行しました。

―久しぶりのイベント開催、お疲れ様でした。終えてみていかがですか?

成澤勝さん(以下、成澤):いやぁ、久々にリアルで開催して、めちゃくちゃ気持ちよかったなというのが率直な感想です。受付開始前から並んでいる方も多くて期待感も感じましたし、「久々に会えたね!」という明るい空気感が会場に漂っていました。

中岡映治さん(以下、中岡):僕は今東京を離れて宮崎で活動しているのでリモート参加だったのですが、それでも会場のパワーは伝わってきました。リアルだからこそできるアイスブレイクや、対面だから盛り上がる場面もありますし、皆さんこの一体感を待っていたんだろうなと思いましたね。

10

三井不動産5年目の成澤勝さん

―コロナ禍以降はオンラインでも何度か開催されていましたが、今回リアル開催したきっかけは何かあったんでしょうか?

中岡:特に大きなきっかけはないのですが、もともとアサゲ・ニホンバシは100回開催を目指して続けてきた企画なので、ここで停滞させたくないなという思いはありました。また今日ご登壇いただいたにんべんの髙津さんは、前回コロナで急遽中止になってしまった回でお話しされる予定でしたし、このままにしておくのももったいなくて、感染対策をしっかりしたうえで開催することにしました。

成澤:これまで参加されていた街の皆さんからも「リアルでやってほしい」という声が挙がってきてましたよね。結果的に3年近く間が空いてしまいましたが、皆さんに喜んでいただけて嬉しかったです。

中岡さん

宮崎県都農町よりオンラインで参加していただいた中岡映治さん

アサゲ・ニホンバシは今、世代交代の途中

―清水さんは第1回から事務局メンバーとして活動され現在の代表でいらっしゃいますが、改めてアサゲ・ニホンバシ立ち上げの経緯と概要を教えてください。

清水拓郎さん(以下、清水):もともとは三井不動産の社内有志で始めた“働いている街ともっと深く関われないか”という勉強会から始まっています。後にこのチームが「日本橋フレンド」というNPO法人になり、2012年からその具体的なアクションとして始まったのがアサゲ・ニホンバシです。ワーカーが集まりやすい“早朝”に、自分たちの会社の創業地である“日本橋”で実施するという点は変えず、歴史ある日本橋において新旧のプレイヤーを繋げられたらと、毎回「マエヒャク」「アトヒャク」の2名のゲストにお話いただくという形を取っています。

(参考記事:働く場所を、第二の地元に。NPO法人「日本橋フレンド」が、ワーカーたちと取り組む街づくりとは? https://www.bridgine.com/2020/04/02/nihonbashi-friend/

09

日本橋フレンド代表の清水拓郎さん

―「働く場所を、第二の地元に。」という日本橋フレンドのスローガンが素敵ですよね。これに共感する多くのメンバーが事務局として集まっていると聞きましたが、現在はどんなメンバー構成なのでしょうか?

清水: NPOとしては僕が代表で理事が10人ほど、それとサポートメンバーとして50人ほどが在籍しており、実働しているのはそのうち20人くらいでしょうか。基本、“来るもの拒まず、去る者追わず”のスタンスでゆるく活動していて、やりたいことがある人が動くというスタイルです。

年齢層的には、立ち上げ当初は20代後半〜30代前半が中心で、中には近所に住んでいる学生さんもいましたね。その学生さんは就職してからも「会社はつまらないけどここは楽しいから」と関わってくれていました。そこから10年ほど経ち、今は当時からの中心メンバーが40代になってきているので、私としては次の世代に引き継いでいきたい時期なんです。

―若手の力が必要なんですね。

清水:そうなんですが、必ずしも若い必要はなくて、たとえばリタイアされたシニア世代の方が入ってきてくれるのも大歓迎です。大切なのは、動きやすくてやる気のある方が主体となって、ビジネスの上下関係から離れて自由にやりたいことができること。古参のメンバーが「それは前やったからやらない方が良いよ」などと口を出すような場にはしたくないんですよね。とにかく、自分たちがこれ!と思うことでどんどん“遊んで”くれれば良いと思っています。

大切なのは、ワーカーと街の接点をどう演出するか

―次世代のメンバーとして今積極的に動いているのが成澤さん・中岡さんということですね。お二人が日本橋フレンドでアサゲ・ニホンバシに関わることになった経緯を教えてください。

成澤:僕は2年ほど前に、仕事がきっかけで参画するようになりました。当時三井不動産の法人向け営業部におりまして、あるオフィスビルに入居しているテナント企業さんを担当していたんです。その企業さんから「社内にもっとコミュニケーションを生みたい」というリクエストを受け、交流イベントを企画したのですが、その時に協力してもらったのが、交流の場づくりを得意とする日本橋フレンドで。これ以降、人をつなぐ面白さを知ってアサゲ・ニホンバシの運営側に入っています。

中岡:僕は2016年頃から携わっているのですが、その頃は当時アサゲ・ニホンバシの会場だったWIRED CAFÉの店員でした。もともと地方創生とか街づくりに興味があったので、ただ会場の担当者としてだけでなく、企画者としても関わりたいなと思い、どんどん入り込んでいった感じです。2020年の夏からは宮崎県都農町に移住して現地の街づくり会社で活動しているのですが、アサゲ・ニホンバシには引き続きリモートで参加しています。

eijinakaoka-1

宮崎県都農町にて。(画像提供:中岡さん)

―中岡さんは今きっと日本橋とはだいぶ異なる環境にいらっしゃると思いますが、日本橋を離れてみて感じたこの街への気づきなどはありますか?

中岡:都農町と日本橋では規模や場所もまったく違うので直接比較できるものではないのですが、離れてみてやっぱり日本橋(中でも室町周辺の中心街)は“ワーカーの街”なのだなと改めて感じましたね。街の外からさまざまな人が働くために来街し、また別の場所に帰っていく街。だからその来街している時間にいかにワーカーと街との関係性を強めるかが豊かさのカギになると思うのですが、ここ日本橋でそれに成功したら、全国区に広めていける気がしています。そのようなイメージを持ったのは、単純に立地面からです。東京の中心地ということもあり世間から見つけられやすいと思いますし、その成功例がモデルケースして水平展開しやすく、貢献範囲が広いんじゃないでしょうか?

―なるほど。日本橋はワーカーの街としても先陣を切っていくポジションになりそうですね。では、街とワーカーの関係性を強めるうえで大切な要素はどんなことだと思いますか?

成澤:一番ポイントになるのは“接点をどうやって演出するのか”ということだと思います。今日のアサゲ・ニホンバシでは「7秒自己紹介」というのをやってましたが、ほかにも参加者の共通点を見出すとか、同じ格好をして参加するとか・・・このイベントではそういう気軽な接点作り・きっかけ作りの場を演出することが多いです。はじめの頃はうまくいかないこともあったみたいですが、さすが90回も回を重ねてくると演出のノウハウがたまってきていますね。

あとは、運営メンバー自らも登壇者や参加者としっかり関係性を築くというのも大事です。“街”といってもその中身の実態は“人”なので、街とワーカーとをつなげるためには、我々がまずハブとなって街に関わる人同士のネットワークを作っていく必要がありますから。

―人と人のネットワークと言えば、清水さんは街の人々の懐に入っていくのが上手だと聞いたことがあります。

清水:いや、僕は人付き合い得意じゃないですから!合う人とは合うってだけで。たとえば僕の場合はちょっと“めんどくさい感じの人”を見ると、よし、攻略してやるぞって燃えちゃうんですよね・・・(笑)。そういう人と真正面からやり取りするから結果的にすごく距離が近くなったりはします。同様に運営メンバーにもそれぞれ得意な相手がいるし、別に個人で全方位をカバーしなくて良いんです。日本橋フレンドというチームとして濃いネットワークが築ければそれでOKだと思いますよ。

08

日本橋フレンドのユニホームである法被には、五街道の起点である日本橋の道路元標チーフが。

絆を継承しながら、新世代の色と融合させていきたい

―アサゲ・ニホンバシは、当初の目標だった100回開催まであと残り7回です。そこまでにどんなことを実施し、100回終了後にはどんな展望をお持ちですか?

成澤:細かい企画プランなどは検討中ですが、とにかく100回まではやりきろう!と決めているので、今のアサゲ・ニホンバシを最後まで貫くことは変わりません。それよりも、僕ら若手メンバーにとってはその先をどうするかを考える方が大切だと思っていて、まさに今中岡さんともいろいろと議論しています。実は、清水さんたちには「100回終了とともに日本橋フレンドを解散しても良いよ」と言われているのですが、個人的にはそれは違うと思っていて。これまで日本橋フレンドが築き上げてきた街との絆を継承したうえで、僕らの新しい“色”と融合させていければと思っています。

―新しい“色”とは具体的にどんなものでしょう?

成澤:僕ら個人がそれぞれやりたいことを、日本橋フレンドの企画あるいはアサゲ・ニホンバシの中でやってみることですね。たとえば僕は怪談が好きで、毎晩ひとつYoutubeで怪談を聞いてから寝るというのをライフワークにしているんですが、今度初めて僕が皆さんに怪談を語るイベントをやる予定でして。今その日のためにしゃべる練習をしています(笑)。

中岡:僕はコロナ前に街コンを企画して開催したんですが、そのような人をつなげる新しい企画も僕らが中心になって進めていきたいですね。最近は「日本橋ヤング・ライオンズ」と題して、日本橋エリアで働く若手が街への愛着を深めるために集まる場所を提供するべく、街中の飲食店に日本橋フレンドの名義でボトルを入れています。誰でも自由に飲んで良いボトルなんですが、飲む前に必ずTwitterで「今から飲みますよ!」とつぶやくことと、最後に飲み切った人は必ず補充することがルール。そんな楽しい仕掛けで、どんどん僕ら世代にもネットワークを広げていければと思います。

61303310_2756055407744225_4401045476313399296_n

街コン企画のフライヤー(アサゲ・ニホンバシFacebookより)

成澤:その意味でも、もっと僕らの活動を知ってもらうような、攻めた発信もしていかないとなと思っているところです。

―街コンに怪談イベント、シェアボトルキープまで、なんだか楽しそうです!最後に、この記事を読んでいる方に向けてメッセージをお願いします。

中岡:日本橋で働いている方、日本橋に関心のある方は、ぜひ一度アサゲ・ニホンバシや、日本橋フレンドが実施するイベントに来ていただきたいです。何か違うと思ったらそれで終わりで良いですし、居心地が良ければもっと関わってもらえたら。目的も知識も必要ありません。ゆるい気持ちで気軽に関われる場所だと思います。

成澤:僕が「働く場所を、第二の地元に。」のスローガンの先に目指しているのは、この街のワーカーの皆さんのウェルビーイング=幸せです。故郷のほかにも帰れる地元があるなんてすごく豊かなことですよね? そういう幸せな人をこの街に増やしていくような活動をしてみたい方、ぜひ仲間になりましょう!Facebookでも情報発信しておりますので、まずはフォローお待ちしています。

07

成澤さんスクエア

日本橋にある神社(成澤さん)

怪談イベントをいずれ街の中のいろいろな場所でやりたいので、雰囲気を盛り上げるような場所とコラボできたら嬉しいです。日本橋には歴史ある神社がたくさんあるので、そんな場所でできたら最高です。

スクエア

焼き肉処 バッテン(清水さん)

ボリュームのある美味しいお肉が食べられる、行きつけの焼肉店。威勢の良い店主とは昔よく口論をしていましたが、今では良い思い出です。

<取材・文:丑田美奈子(Konel)/撮影:岡村大輔>

Facebookでシェア Twitterでシェア

TAGS

Related
Collaboration Magazine Bridgine