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2021.12.17

老舗菓子店の看板商品をフレンチの気鋭シェフが新解釈!? 【つなぎふと TEAM A】文明堂東京×ラ・ボンヌターブル×ニューホライズンコレクティブ インタビュー

老舗菓子店の看板商品をフレンチの気鋭シェフが新解釈!? 【つなぎふと TEAM A】文明堂東京×ラ・ボンヌターブル×ニューホライズンコレクティブ インタビュー

日本橋の食プレイヤー2組と、日本橋にゆかりのあるクリエイターの3者によるコラボレーションで、街の新しい食みやげをつくるプロジェクト「つなぎふと」。ブリジンでは、3チームのおみやげ制作に並走し、そのプロセスを発信していきます。今回は、文明堂東京、ラ・ボンヌターブル、ニューホライズンコレクティブの3者が参加するTEAM Aのキックオフミーティングと、それに続く形で行われた参加メンバーへのインタビューなどをお届けします。

通りひとつ挟んだ“お向かいさん” 

TEAM Aメンバーによるキックオフミーティングは、11月19日に日本橋室町にある文明堂カフェで行われました。
出席者は、文明堂日本橋本店の支配人・堀安洋史さん、ラ・ボンヌターブルの中村和成シェフ、そして、両者をつなぐファシリテーターとして参加するニューホライズンコレクティブから小川滋さん(オンライン参加)、川瀬麻紀子さんの計4名です。

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キックオフミーティングの会場となった文明堂カフェに直結する文明堂日本橋本店

今回が初顔合わせとなる面々ですが、文明堂カフェを併設する文明堂日本橋本店とラ・ボンヌターブルは、江戸桜通りを挟んだお向かいさん。実際に中村シェフは、徒歩数秒の距離にある文明堂の商品を日本橋の手みやげとしてよく購入されていたそうで、「日本橋の食みやげ」という今回のプロジェクトにはピッタリのご縁です。
この日は、両者の顔合わせと今後の進行、各社の役割確認などが中心となりましたが、「今回のコラボレーションを通して日本橋限定の商品を育てていけると良い」(文明堂東京・堀安さん)、「薄利多売の商品ではなく、しっかり価値あるものをつくりたい」(ラ・ボンヌターブル・中村シェフ)とそれぞれに抱負も語ってくれました。

TEAM Aにファシリテーターとして参加するニューホライズンコレクティブは、先日人形町に活動拠点を設立したばかり。電通を早期退職したおよそ200名が参加し、人生100年時代の新しい働き方を体現する組織としても注目を集めています。

(関連記事:日本の中心から、人生100年時代の働き方を発信。人形町に生まれた「ニューホライズンパーク」が目指すこと。

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ニューホライズンコレクティブが先日人形町に開設した活動拠点「ニューホライズンパーク」。1Fは路面に開かれたカフェになっている

さまざまな経歴・職能を持つ同社から参加するのは、日本橋で都市開発の仕事などに関わった経験もある小川滋さん、現在は京都在住で、生活文化プランナー/コンセプターを掲げて食の領域で活動している川瀬麻紀子さん。今回の企画においてこれ以上ないほど頼もしいおふたりが、コラボレーションを推進してくれます。

キックオフミーティングから間もない11月23日に、文明堂カフェで行われた第2回目の会合では、食プレイヤー両者の歴史や活動、日本橋の街への思いなどをより深く知ることを目的に、川瀬さんを聞き役にインタビューが行われました。

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インタビューで聞き役を務めてくれたニューホライズンコレクティブの川瀬麻紀子さん

「伝統」と「進化」が混じり合う街

川瀬:まずは、文明堂東京、ラ・ボンヌターブルの事業の歩みとおふたりのキャリアについて改めて教えてください。

堀安:文明堂は、カステラという食文化を長崎から発信する会社として1900年に創業しました。現在は暖簾分けで広がった文明堂が全国に複数存在しているのですが、我々文明堂東京は、文明堂新宿店と文明堂日本橋店が2010年に経営統合して生まれた会社です。私は2020年に文明堂日本橋本店の支配人に着任しましたが、それまでは6、7年ほど法人営業の部署にいて、百貨店が多い日本橋にもよく来ていました。営業の仕事をする前は生産管理や総務などの仕事もしていて、ひと通りの業務を経験してきているつもりです。

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文明堂日本橋本店の支配人を務める堀安洋史さん

中村:私は西麻布にあるレフェルヴェソンスというフランス料理のレストランで4年ほど働き、その姉妹店という形で2014年にオープンしたラ・ボンヌターブルで開業からシェフを務めています。もともと料理人を目指していたわけではなかったのですが、アルバイトの仕事で料理と出合ったことがきっかけで、割と安易な気持ちでこの世界に入りました。フランス料理を選んだのもそれまで食べたことがなかったからという微妙な理由なのですが(笑)、フランス料理は他の料理よりも自由度が高く、シェフの美意識や創造性が活かしやすい分野で、色々な要素を掛け合わせて料理を構築していけるところに魅力を感じています。

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ラ・ボンヌターブルの中村和成シェフ

川瀬:日本橋の印象や街との関係などについても聞かせてください。

堀安:文明堂東京の本社所在地は新宿なのですが、日本橋にはお食事や喫茶などを提供する「文明堂カフェ」があります。日本橋には古き良き伝統がある一方で、常に新しい発信をしようとしている街でもあると感じます。最近は老舗のお店でも自分と同世代の方たちが後を継ぎ始めていて、新しい企画やチャレンジのお誘いを受けることも多いです。店舗間での情報交換も盛んで、横のつながりが強いこともこの街の特徴ですよね。コロナ禍の苦しい状況下でもそれぞれのお店が色々なチャレンジをしていたのですが、我々も周囲の飲食店が始められたテイクアウトの事例などを勉強させて頂くことができました。

川瀬:店舗の歴史や規模の大小を問わず、街の中でコミュニケーションが取られているのですね。

中村:日本橋の老舗と新しいプレイヤーのプレゼンを聞きながら朝ごはんを食べる「アサゲ・ニホンバシ」というイベントに登壇したことがあるのですが、そこでも色々な世代の人たちが仲良くしていましたね。日本橋には街に対する思いが強い方が非常に多いと感じます。日本橋の街は古い部分を残しながらも、1、2年でまったく風景が変わってしまうような場所もあるほど凄い勢いで変化を続けていて、「伝統」と「進化」が混じり合っている街だと感じます。老舗の文明堂さんがオシャレな雰囲気のお店として運営されているこの文明堂カフェも、まさに日本橋らしい場所だなと思います。

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中村シェフが登壇したイベント「アサゲ・ニホンバシ」。(日本橋フレンドウェブサイトより)

コロナ禍に見せた両者の進化

川瀬:文明堂は東京進出からまもなく100年を迎えますが、堀安さんから見たこの会社の凄いところを教えて下さい。

堀安:それこそ日本橋の街には我々よりもはるかに歴史がある企業がたくさんありますし、とりわけ自分たちのことを凄い会社だとは思っていません。その知名度から過剰に期待感を持たれるようなこともありますが(笑)、歴史にあぐらをかくことなく、色々な仕事を通じて皆様から勉強させて頂きたいと考えています。社長の宮﨑もよく話しているように、文明堂は企業というよりは家業に近く、温かくて良い会社だと感じています。

川瀬:ものづくりのこだわりについてはいかがですか?

堀安:お菓子を長く取り扱っているとお客様のニーズの変化も感じるようになりますが、我々は一貫して原材料にこだわってきました。例えば、賞味期限などを考えると保存料などを使った方が良いのですが、主力商品のカステラには保存料や添加物は入れておらず、そこにはしっかりした品質の商品をお届けしたいという食品メーカーとしてのこだわりがあります。卵などにしても厳しい基準のもとで仕入れさせて頂いていて、製品ごとに種類も変えています。さまざまな産地やメーカーからのご提案も多いのですが、製品の品質を下げるような選択は決してせず、ものづくりと真摯に向き合っている会社だと思います。

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文明堂新宿店・文明堂銀座店の「特撰五三カステラ」と、文明堂日本橋店の「特撰ハニーかすてら吟匠」の味を約10年かけて統合した文明堂東京グループとしての新しい「特撰五三カステラ」。(画像提供:文明堂東京)

川瀬:ラ・ボンヌターブルのスペシャリテについても教えて下さい。

中村:その時々で変えていて、最近では松茸を一本そのままパイ包みにしたものを推していました。これまでは定番として出していた料理もあったのですが、常に進化していきたいという思いが強いので、今年からはそれらを一切やめました。型にはまってしまうと新しい発想ができなくなりますし、マンネリ化していくところもあります。今回のような企画に参加することでもさまざまな着想が得られたり、新しいつながりが生まれると思っているので、一つひとつ新しいことに挑戦していくことを常に心がけています。

川瀬:ちなみに、なぜ松茸を一本丸ごと包もうと思ったのですか?

中村:シンプルに「パイを包んだ形が面白いんじゃないか」と思ったのがきっかけでした。最初はスタッフも笑って見ていたのですが、ウキウキワクワクするような子供の遊び心のようなものを料理に取り入れていきたいと常々考えています。また、パイを包む技術は誰にも負けないという自負があって、よく冗談で「私に包めないものはない」と言っています(笑)。それこそ文明堂さんのカステラやどら焼きも包めると思います。それが美味しくなるかはまた別の話ですが(笑)。

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松茸を丸ごとパイ包みにし、軸の部分もソースに使うなど素材を余すことなく使った中村シェフ渾身の一皿。(画像提供:ラ・ボンヌターブル)

川瀬:今後チャレンジしたいことなどがあれば聞かせてください。

堀安:和菓子から洋菓子までを広くプロデュースしながら、より幅広い層やシーンに商品を届けていきたいと考えています。例えば、カステラに関してもこれまではギフト需要が中心でしたが、そのマーケットは年々縮小しています。そうした中で、最近では朝食などに召し上がっていただける「おやつカステラ」や、山登りやスポーツをする人の補食を目的にした「V!カステラ」(好評につき販売を一時休止中。2022年1月中に販売再開予定)など、生活のさまざまなシーンでカステラを取り込んでいただけるような商品開発を進めていますし、今後も積極的に新しい需要を掘り起こしていきたいと考えています。

中村:コロナ禍になって色々なチャレンジを始めました。インスタグラムで料理教室をするなどオンラインで活発に活動をするようになったのですが、それによって多くの人にお店のことを知って頂くことができ、自粛開けには実際にそうした方々がお店に足を運んでくださいました。また、どうしてもお店に来られない方たちの声を受けて冷凍食品の通販を始めたり、生産者を応援するマルシェを店頭で開いたり、コロナ禍がきっかけで自分でも驚くほどのチャレンジができ、何かが起きた時にも対応できる力がつきました。

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お互いに実りのあるプロジェクトに 

川瀬:改めて今回のプロジェクトへの参加を決めた理由もお聞かせください。

堀安:日本橋にいると街のさまざまな取り組みのお誘いを受けるのですが、基本的に来る者は拒まずという姿勢でいますし、社長も新しい取り組みが好きな人間なんです。私自身も新しいことにチャレンジすることは好きですし、今回のお誘いは非常にうれしかったです。また、中村シェフもおっしゃっていましたが、新しいチャレンジやそこから生まれるつながりによって得られる刺激というのは多いと思います。そうしたチャレンジができなくなった時点で会社は成長が止まってしまうと個人的には考えています。

中村:新しい日本橋のおみやげをつくるという企画の内容を聞いた時に面白そうだと感じ、詳しい話を聞いてみようと思ったのが最初のきっかけでした。ちょうど冷凍食品やお弁当などにもチャレンジし始めていて、できたての料理をつくる以外の経験やノウハウが少しずつ蓄積されていたこともあって、何かできるんじゃないかという考えもありました。ただ、最初の時点では文明堂さんと組むということは知りませんでした(笑)。

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コロナ禍の毎週日曜朝に開催されていたラ・ボンヌターブルの朝市では、全国の生産者による野菜や果物のほか、中村シェフによる加工品なども販売されていた。(画像提供:ラ・ボンヌターブル)

川瀬:コラボレーション相手について聞かされた時は、それぞれどのように感じましたか?

中村:「マジか?」というのが第一印象でした(笑)。文明堂さんのCMはよく見ていましたし、僕の中では圧倒的な王道であり、カステラと言ったら文明堂というイメージです。個人的にも文明堂さんのお菓子をおみやげとして使わせて頂いていて、日本橋限定の商品なんかを持っていくととても喜ばれるんです。そんな会社と一緒に日本橋のおみやげをつくるというのはなかなか実感を持ちにくいのですが、文明堂さんとコラボレーションをすると言ったらうちの親や親族も喜んでくれるだろうなと思いました。なんせうちのおばあちゃんよりも年上なわけですからね(笑)。

堀安:ラ・ボンヌターブルさんは私なんかには縁のない高級フレンチというイメージがありました。また、中村さんはレストランの仕事が忙しいはずなのに、オンラインで凄い量の発信をされていて感心させられましたし、本当に仕事を楽しまれているんだなと感じました。長い歴史を持つ文明堂は、続けること、守ることは得意かもしれませんが、一方で新しいことを始めるための力や発想が不足しているところが正直あります。だからこそ、中村さんのような方と組むことで自分たちにはないものが得られるのではないかとワクワクしていますし、ある意味文明堂らしくない今回の取り組みをやり切り、しっかり成果を出したいと思っています。

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ラ・ボンヌターブルの店内の様子。(画像提供:ラ・ボンヌターブル)

川瀬:これから一緒に開発するおみやげでは何を目指していきたいですか?

堀安:それぞれの良さや「らしさ」を保ちつつ、新しいチャレンジをしていくことでお互いが満足できるようなおみやげにしたいですね。時間は限られていますが、その中でも妥協はせず、精度にはこだわりたいですし、これからも色々なコミュニケーションを取りながら進めていければと考えています。

中村:今回のプロジェクトをきっかけに新しい商品はもちろんですが、チャレンジする姿勢なども発信できるといいですね。文明堂さんとのコラボレーションやカステラを料理に取り入れるという考えは自分の中にはないものだったので、まずこうしたチャンスを頂けたこと自体をありがたく思っていますし、とても面白い発想だと感じています。新しいもの、良いものをしっかりカタチにしていきたいですし、文明堂さんにとっても新しいビジネスのヒントのようなものが見えるといいなと思っています。

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文明堂日本橋本店には、120年に及ぶ文明堂のあゆみや写真パネルなどが展示されている

第1回目の試食会も開催

このインタビューから約2週間後には、早速1回目の試食会がラ・ボンヌターブルで行われました。中村シェフが出してくれたのは、文明堂東京の看板商品「五三カステラ」をアレンジした試作。「カステラの素朴な味わいは濃い目の味付けにも相性が良く、合わせようと思えばどんなものに合わせられる」とカステラのポテンシャルについて語った中村シェフは、通常業務の合間を縫って短期間のうちにさまざまな実験にトライしてくれたようです。

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この日は、試行錯誤の末に生まれた試作を前に、文明堂東京・堀安さん、ニューホライズンコレクティブ・川瀬さんとともに、製造プロセスや賞味期限、パッケージなどさまざまな観点から議論が交わされました。

いつでも変わらない美味しさで、おみやげとしても広く支持されてきた文明堂のカステラと、季節ごとの素材を用いて、目の前のお客さんに向けて中村さん曰く「賞味期限5分(!)」の料理を提供するフレンチシェフの発想や技術は、果たしてどのような出会いを果たすのでしょうか。

ブリジンでは3者のコラボレーションのプロセスを引き続き発信していきますので、今後の展開にもぜひご期待ください。

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インタビュー:川瀬麻紀子(ニューホライズンコレクティブ)  構成・文:原田優輝(Qonversations) 撮影:岡村大輔

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