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2021.12.22

和菓子店のあんことヴィーガンスイーツの出会いで生まれる新しい味 【つなぎふと TEAM B】日本橋日月堂×ovgo B.A.K.E.R×MIDORI.soインタビュー

和菓子店のあんことヴィーガンスイーツの出会いで生まれる新しい味 【つなぎふと TEAM B】日本橋日月堂×ovgo B.A.K.E.R×MIDORI.soインタビュー

日本橋の食プレイヤー2組と、日本橋にゆかりのあるクリエイターの3者によるコラボレーションで、街の新しい食みやげをつくるプロジェクト「つなぎふと」。ブリジンでは、3チームのおみやげ制作に並走し、そのプロセスを発信していきます。今回は、日本橋日月堂、ovgo B.A.K.E.R、MIDORI.soの3者が参加するTEAM Bのキックオフミーティングと、その後行われた参加メンバーへのインタビューなどをお届けします。

対照的な立ち位置を、お菓子という共通項が“つなぐ”

TEAM Bメンバーによるキックオフミーティングは、11月16日にまずはovgo B.A.K.E.Rの見学からスタート。
出席者は、日月堂の代表・安西雅希さん、ovgo B.A.K.E.Rの代表・溝渕由樹さんとインターンの柳田藍さん、そして、両者をつなぐファシリテーターとして参加するMIDORI.soからは正心麻里子さんと増田早希子さんの計5名です。この日は、両者の顔合わせと今後の進行、各社の役割確認などが中心となりました。

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キックオフミーティングでは、これから始まるプロジェクトの方向性や役割分担を皆で再確認しました

「日本橋でお菓子を作っている」という共通項を持つTEAM Bの日月堂とovgo B.A.K.E.Rですが、その歴史や専門領域には大きな違いが。明治10年創業の和菓子店の6代目店主を務める日月堂の安西さんと、今年の6月に小伝馬町に一号店を出したばかりの溝渕さんは、製品コンセプトや販売ターゲットなど全く違う面を持っています。しかしお互いの異なる活動に興味をひかれ、お二人とも今回のプロジェクトを楽しみにされていたそうです。

今回のコラボレーションは、もともと「あんこを使ったお菓子を作りたい」との希望を持っていた溝渕さんのアイデアでスタートしたもの。ヴィーガン菓子では一部の白砂糖を使用しないため、あんこを取り入れるためにはあんこに使う砂糖をヴィーガン対応のものに変える必要がありました。そこを快く協力いただいたのが安西さん。「今までやったことのない甜菜(てんさい)糖を使ったあんこを作ることにしました。それを使ってどんなお菓子が出来上がるのか期待しています」と、前向きなコメントをくださいました。溝渕さんも「本来ヴィーガン対応しているかの確認が難しい、あんこを使ったお菓子はずっと構想にあったので、それを老舗和菓子店さんと一緒に取り組めるなんて楽しみです」とのこと。

また、TEAM Bにファシリテーターとして参加するMIDORI.soは、10月に馬喰横山に4つ目のシェアオフィスをオープンしたばかり。2012年からシェアオフィスやコワーキングスペースを運営する彼らが東東京に進出したことで、150年の歴史を持つ横山町問屋街の人の流れ、コミュニティの在り方が大きく変わっていくことも期待されています。

(関連記事:「働く」と「生きる」を体現する場所。シェアオフィスの先駆者が語るコミュニティの在り方。

内観

MIDORI.so BAKUROYOKOYAMAの1Fにはカフェもあり、近隣のオフィスに勤める方達のオアシス的存在にもなっている(画像提供:MIDORI.so)

今回は、MIDORI.soでコミュニティのメンバー同士を繋ぐ「コミュニティ・オーガナイザー」という役割をされている、正心麻里子さんがこのチームのつなぎ役として参加。お互いの良さを引き出しながら一つのものを作りあげるバックアップと、MIDORI.soのクリエイターを巻き込んだ商品デザインを担当します。

キックオフミーティングから2週間後の12月2日には、日月堂さんのお店見学から始まる第2回目の会合を実施。見学後はMIDORI.soに移動し、老舗和菓子屋さんの美味しいお菓子をいただきながら、正心さんを聞き役に、食プレイヤー両者の歴史や活動・お菓子を作る上で大切にしていることなど、相互理解を深めるインタビューが行われました。

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インタビューで聞き役を務めてくれたMIDORI.soの正心麻里子さん

あんことヴィーガンは、実は相性抜群!

正心:まずは、日月堂、ovgo B.A.K.E.Rの歩みとおふたりのキャリアについて改めて教えてください。

安西:日月堂は、明治10年創業時からずっと日本橋小舟町にお店を構え、どら焼きや生菓子をメインにした和菓子を作ってきました。今は季節柄、日本橋界隈のお店や会社から注文をいただく鏡餅なども取り扱っています。僕自身は6代目にあたりまして、25年間このお店で製造・販売に携わっています。

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日月堂6代目店主の安西雅希さん

溝渕:ovgo B.A.K.E.Rは、今年の6月に小伝馬町にオープンしたアメリカンヴィーガンベイクショップです。もともとは2020年1月に青山ファーマーズマーケットで出店したのが活動のスタートで、そこからは各地のフリーマーケットでの販売、知り合いのカフェへの受託販売をメインにやってきました。「ヴィーガン」というと少し難しいイメージもあるかもしれませんが、私たちはだれでも気軽に楽しく食べられるプラント(植物性)ベースの焼き菓子の提供を心がけています。

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ovgo B.A.K.E.R代表の溝渕由樹さん

正心:活動される上で大切にされていることはありますか?

安西:伝統を大切にしたいという想いはもちろんありますが、老舗だからといって固定概念に縛られることなく、幅広いアイデアを具現していきたいと思っています。最近では、イタリアのマリトッツォをアレンジした「マリトッツォどら」のビジュアルが話題となり、多くのお客様がびっくりしつつも買っていってくださいます。
趣味の話になるのですが、私自身、1日1時間、運動の時間を持つようにしていて、その時間にアイデアが浮かぶんですよね。健康維持のために始めたランニングなんですが、思考が広がる感覚があり、そこで思いついたことを和菓子として形にすることも多くて。実はもうすぐ東京タワーの階段レースにも出場するんですよ(笑)。

大福加工

コーヒー好きの安西さんのアイデアから生まれた、コーヒー生大福は、今やお店の大人気商品に(画像提供:日月堂)

溝渕:私たちは、長く続けられるサスティナブルな食生活を提案する、ということを意識しています。実はヴィーガンベイクショップを開業したのは、“環境負荷を減らすために植物性のおやつを、だれでもおいしく気軽にライフスタイルに取り入れてほしい”という思いが根本にあります。環境や体に良いと言われるプラントベースの食習慣は、ストイックなイメージを持たれがちですが、さまざまな味や食感を作り出せば飽きずに長く続けられ、無理なく習慣を積み重ねることで、環境への負荷を軽減できる一端となるのでは?と考えています。

安西:僕はこのお話をいただいて、初めてヴィーガンについてきちんと調べはじめたのですが、あんこも原材料を選べば、ヴィーガン食品になるんですね!今までそういう視点で考えたことがなかったので新鮮でしたし、この機会をいただいたことで自分の知見も広がっています。

溝渕:ヴィーガンの人は精製の際に動物の骨炭を使用している一部のキビ砂糖を使うことを避けるのですが、甜菜糖を使えば、ヴィーガンの人でも食べられるあんこが出来上がるんです。元々和菓子とヴィーガンの相性は良いはずだと思っていたので、今回このプロジェクトを通して老舗和菓子店の日月堂さんとコラボレーションできることを、とても楽しみにしていました。

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インタビューは馬喰町のMIDORI.soで行われました

アイデアを具現化するお菓子作り

正心:原材料のお話もでましたが、普段メニュー開発や材料選びで重視されていることもお聞かせいただけますか?

安西:あんこに使う小豆ひとつとっても種類は本当に多くありますが、原材料は一切妥協をせずに、自分たちが良いと思うものを選んでいます。また、ビジュアル面では四季折々で色合いやニュアンス、モチーフを変えて、季節の移り変わりを表現することも意識していますね。

溝渕:ヴィーガンに持たれがちな「物足りなさそう」「ヘルシーそう」というイメージを変えるため、甘さやフレーバーを食材の組み合わせで工夫し、卵やバターには表現できない味わいを追究しています。原材料に関しては、環境負荷を減らすことが前提なので、完璧とまではいかずとも“ヴィーガンで、できる限りオーガニック食材”であること、健康にも地球にも良い素材を使うことにはこだわっています。

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季節ごとに限定のフレーバーも出しているクッキー。12月はシュトーレンをイメージしたものも

正心:今後チャレンジしたいことなどありますか?

安西:フルマラソンの大会への出場でしょうか。目指せ、アスリート和菓子職人!というのは冗談ですが(笑)、和菓子は運動時や登山時の行動食としても可能性を秘めているのでは?と思っているので、行動食用の羊羹を作り、自分でもそれを食べつつ走ってみるというのを試してみたいんです。羊羹はあんこの原料と寒天で作れますから、ヴィーガンにも向いていますよね。

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羊羹やどら焼きなど、日月堂店内には多彩な和菓子が所狭しと並んでいる

溝渕:羊羹もいいですねえ!
私はいつかニューヨークで、ヴィーガンクッキーを売ってみたいんです。青山ファーマーズマーケットで始まったヴィーガンクッキーを、ユニオンスクエアのファーマーズマーケットで売るという目標があります。
やはりサスティナブルなビジネスという文脈においても、一歩進んでいるのはアメリカとかヨーロッパなんです。コロナ禍が明けて海外へ気軽に行けるようになったら、そういったことにチャレンジして、そこで学んだことをまた日本に持ち帰り、ノウハウや空気感を周りにも伝えていけたらと思っています。

正心:お菓子作りを生業にされている共通項はありますが、お互いの活動についてどのようなイメージを持たれていますか?

安西:溝渕さんとお話するのは今日でまだ2回目ですが、若くて活発で、柔軟性がある方という印象です。ヴィーガンを知らない人や難しいと思っている人でも、カジュアルに入ってこれるよう、間口を広げようと、様々なことを考えられていらっしゃいますよね。

溝渕:ありがとうございます。安西さんは歴史あるお店をやられているのに、そこに留まらず常に新しいアイデアを具現されようと取り組まれているのがすごいですよね。何十年もこの世界にいらっしゃるプロの方が、枠にとらわれず色々な挑戦をされている姿が、とても素敵だと思います。

今っぽい要素を加えた「おみやげ」を

正心:改めて、今回の「つなぎふと」プロジェクトに参加してくださった理由もお聞かせください。

安西:パッとアイデアを生み出して試作を作る、その繰り返しができるのは、小さな店だからできる強みだと思っていて。今までは自店だけでやっていましたが、今回はお互いのアイデアを引き出しながら、最大限にその強みを生かしていけるのではないかと思い、参加しました。春だから桜色っぽいクッキーなんかもおもしろそうだな・・・と考えたり、ランニングしながら日々アイデアをたくさん出しているところです(笑)。

溝渕:この街に新しくきた人たちとの繋がりは持てているんですが、老舗さんと知り合うきっかけがなかったので、今回のプロジェクトを通して繋がれる!と思って、やりますと即答しました。前にブリジンのインタビューでも和菓子に興味があると話していて、それをもう叶えてくれるのか!と(笑)。

正心:今回は「日本橋のお土産」というテーマがありますが、お二方の日本橋エリアに対するイメージや想いを伺えますか。

安西:物心ついたときからずっと通っている場所で馴染みがあるものの、最近ではだいぶ開発されて新しいお店やビルなども増えてきましたね。それでもちょっと路地を入ると、昔ながらの蕎麦屋さんなどがあってホッとします。そういう昔から住んでいる人や商売をされている人が、とてもやさしい街なんです。新しく街に入ってきてもすぐに馴染めるような土壌がありますよ。

溝渕:現代アートや昔からの文化を感じる場所が点在しているなど、新旧が良い具合にミックスされていて、青山や渋谷などの街とはまた違う一面を持つ街ですよね。小伝馬町のフードコート「COMMISSARY(カミサリー)」の人たちと個人的に親しく、そこでおすすめされてこの地にお店を出すことを決めたんですけど、最近は新しいホテルやお店も増えてきていて、これからが楽しみな街だなと感じています。

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オフィスの多い小伝馬町エリアの中で一際目を引くovgo B.A.K.E.R

正心:これからどのようにこのプロジェクトに取り組み、お土産を作っていきたいか教えてください。

安西:最終的にどんな商品として世に出すのかは、溝渕さんたちovgo B.A.K.E.Rの方向性があってこそだと思っていますが、こんな商品を作りたいからこういうあんこを作ってほしい、というリクエストに精一杯応えていきたいですね。

溝渕:作り手の大先輩にそんなことを言ってもらえるなんて、心強いです!
せっかくこのプロジェクトでお土産をつくるので、日本橋らしさと今っぽさ、例えばサスティナブルな要素などを掛け合わせたものを作っていきたいですね。お互いの良さを引き出し合えるようなものを生み出せればいいなと思っています。

第1回目の試食会も開催 

このインタビューと同日に、安西さんは甜菜糖を使った2種類のあんこを、溝渕さんはお店の代表的な味のクッキーを数種類持ってきてくださり、試食会を開催。あんこを美味しそうに頬張る溝渕さんと、クッキーの食感や風味をじっくり味わう安西さんの表情が印象的でした。

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このプロジェクトのために特別に作った甜菜糖のあんこが、どんな硬さの、どんなフレーバーのクッキーに合うのか、チームのみんなで意見交換。賞味期限や価格帯、パッケージに入ったときのイメージを想像しながら、それぞれのアイデアを出し合いました。

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インタビュアーを務めた正心さんいわく「対極にいるようにみえて、柔軟性を持っているという意味では似たもの同士の二人。どんな融合をしていくか、これからがとても楽しみ」とのこと。
ブリジンでは3者のコラボレーションのプロセスを引き続き発信していきますので、今後の展開にもぜひご期待ください。

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インタビュー:正心麻里子(MIDORI.so) 構成・文:古田 啓(Konel) 撮影:岡村大輔

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