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2022.09.21

「つなぎふと」2ndステージ始動。新たな仲間と出会うキックオフイベントリポート

「つなぎふと」2ndステージ始動。新たな仲間と出会うキックオフイベントリポート

日本橋内外の事業者たちのコラボレーションによって、日本橋の新しい食みやげを開発するプロジェクト「つなぎふと」。3月に開催された「SAKURA FES NIHONBASHI 2022」でお披露目された3つのおみやげはさまざまなメディアやSNSで紹介され、話題となりました。このご好評を受けて、このたび晴れて第2回「つなぎふと」の実施が決定しました! この記事では、つなぎふと2022の最初の取り組みとして8月23日に開催されたキックオフイベントの模様をお伝えします。

2年目のスタートを告げるキックオフイベント

絆を重んじる日本固有の文化である「おみやげ」づくりを通じて人や地域、世代をつなぐことを掲げ、2021年にスタートしたつなぎふとは、日本橋内外の食事業者とクリエイターのコラボレーションによって3つの日本橋みやげを生み出すことができました。
そんなつなぎふとが2年目を迎えるにあたって目指すのは、食事業者やクリエイターはもちろんのこと、地域の住民やワーカーらにもおみやげづくりのプロセスに関わってもらい、街の内外により多様で強いつながりを築いていくことです。
事務局が目指すプロジェクトのヴィジョンを日本橋の事業者の皆さんに共有するとともに、来たるべき第2回つなぎふとに関わってくれる仲間たちとつながることを目的に、先日「つなぎふと2022」キックオフイベントを開催しました。

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「つなぎふとは現在進行系のプロジェクト。日本橋の事業者やワーカーの皆さんと一緒に、どうすればおみやげづくりを通じて、日本橋の魅力を発信していくことができるのかを考えていきたい」とプロジェクトにかける思いを語るのは、つなぎふとを主催する三井不動産・日本橋街づくり推進部の新井章希さん

キックオフイベントのメインコンテンツは、異なる立場の登壇者たちが「つなぎふと」でつくるおみやげの可能性について語る3つのプレゼン&トーク。食事業者、クリエイター、ワーカーなどさまざまな立場の人たちに、つなぎふとに関わるイメージを持ってもらうきっかけをつくることが目的です。
ここからは、それぞれのプレゼン&トークの内容について紹介していきます。

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つなぎふと事務局のメンバーたち。左から、ブリジン編集部を代表して1人目のプレゼンターも務めたコネル・丑田美奈子さん、三井不動産・日本橋街づくり推進部の新井章希さん、トークセッションのファシリテーターを担当したカンバセーションズ・原田優輝

プレゼンテーション① 日本橋の「内」と「外」をつなぐおみやげ

プレゼンター:丑田美奈子さん(ブリジン編集部)

つなぎふとには、日本橋の街におけるさまざまなつながりを可視化し、新たなコラボレーションを促進することを目指すブリジンが企画から携わり、チームアップからおみやげが完成するまでのプロセスをメディアを通じて発信してきました。最初のプレゼンテーションは、そんなブリジン編集部の丑田美奈子さんによる、日本橋の「内」と「外」をつなぐおみやげの提案です。

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五街道の起点であり、現在もアンテナショップが点在するなど、全国の地域と東京をつなぐハブとしての役割を担ってきた日本橋。しかし丑田さんは、現在の日本橋は地域を「消費」するだけになっていないか、一方通行の交流になっているのではないかと問題を提起し、地域のおみやげを日本橋でアップデートする構想について語りました。

その一例として、丑田さんの出身地である茨城県のローカルフード「そぼろ納豆」を、日本橋で働く茨城出身のシェフやクリエイター、職人らがタッグを組んでアップデートすることを提案。さらに、47都道府県の地域みやげをアップデートする「日本橋・上京みやげ47」、日本橋生まれのおみやげを郷土でも販売する「おみやげの帰省」などのアイデアを通して、日本橋内外のつながりを深める新しい地域みやげの可能性を示してくれました。

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プレゼンの最後には、「おみやげづくりを『目的』にするのではなく、新たな価値やつながりを生むための『手段』にしたい」とつなぎふとが目指すヴィジョンについても語った丑田さん

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トークセッション① おみやげが紡ぐ地域のつながりとは?

登壇者:丑田美奈子さん(ブリジン編集部)、堀田卓也さん(TOIビル)

続くトークセッションでは、日本橋横山町でうつわをテーマにした複合施設「TOIビル」を運営する堀田卓也さんを交え、「おみやげが紡ぐ地域のつながり」をテーマに議論しました。堀田さんは、以前から伝統工芸品や地場産業のプロデュースを手がけ、TOIビルでも各都道府県の器と食にフォーカスした企画を開催するなど、このテーマにうってつけの人物です。

(関連記事:https://www.bridgine.com/2022/07/06/toibldg/)

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「僕は東京出身ですが、青森出身の妻が帰省する時は田舎に帰る感覚になって、いまでもワクワクする。仕事柄全国の産地に行きますが、さまざまな県民性や地域文化があり、日本は豊かな国だなと思う」と語る堀田さん

トークの冒頭で堀田さんは、「産地から距離が遠くなればなるほど、モノの良さを伝える努力が必要になります。だからこそ、『このそぼろ納豆が美味しい』ということを東京で伝えてくれる存在が大事ですし、とても良い企画だなと思います」と丑田さんのプレゼンを評価してくれました。
それを受け、「今日も茨城出身の方がお一人いらっしゃってとても嬉しかったのですが、同郷というだけで凄く盛り上がりますよね。そうしたつながりをモノを媒介に発展させていけるんじゃないかと思います」と丑田さん。

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丑田さんのプレゼンでは、おみやげを通して地域の魅力を発見する「おみやげツーリズム」の可能性にも言及されていましたが、TOIビルでも、店舗で販売しているうつわの産地を訪れるツアー商品の販売をしているそう。地域を訪れることによって完成するおみやげのあり方にも新たな可能性を感じます。

「全国から人やモノが集まる日本橋だからこそできることがあるはずです。単にモノを消費するだけでなく、それらを編集することでまさに“アップデート”ができるのではないかと思います」と堀田さんが語るように、五街道の起点である日本橋ならではの「つなぎ方」をおみやげづくりを通じて実現させることが、事務局の目指すところでもあります。日本橋と地域をつなぐだけにとどまらず、この街がハブとなり、さまざまな地域と地域がつながっていくようなおみやげづくりにまで想像が膨らむセッションとなりました。

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参加者のおよそ半数は、東京以外の地域から日本橋に出てきている人たちだった

プレゼンテーション②<つなぎふと>で、こんなおみやげをつくりたい

プレゼンター:寶井英晴さん(蛇の市本店 五代目、三四四会会長)

2人目のプレゼンターは、江戸前鮨の老舗、蛇の市本店の寶井英晴さん。実は寶井さんは、昨年のつなぎふとの取り組みを見て、次は自分も参加したいと手を挙げてくれた方。日本橋料理飲食業組合青年部・三四四会の会長も務める寶井さんに、「つなぎふと」でつくりたい日本橋みやげについてプレゼンをしていただきました。

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かねてから寶井さんは、日本橋ならではのおみやげの必要性を感じていたそうです。京都や金沢などの有名観光地では、街を代表するおみやげが各所で売られていることに対して、これぞ東京みやげというものが少ないと問題を提起。日本橋に限っても、街を代表する老舗の商品はすでに全国に流通しているものが多く、一方若手事業者は、日本橋を代表するおみやげというと敷居の高さを感じてしまうのが現状だと続けます。そんな折に、新旧の食事業者が融合したつなぎふとの商品を見て、「これだ!」とピンと来たのだそうです。
三四四会の各店舗がコラボしたおみやげのアイデアなどを提案してくれた寶井さんは、「これからの日本橋は、観光の面でも東京の中心にならないといけない。その中で、我々のような老舗も新しい人たちも自信を持ってこれが日本橋のおみやげだと言えるものをつくる必要がある」と熱く思いを語ってくれました。

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「地方から東京に出張するお父さんに、『つなぎふとのおみやげを買ってきて』と娘さんがお願いするような、日本橋でしか買えない希少性のあるおみやげをつくりたい」と寶井さん

トークセッション②日本橋を代表するおみやげをつくろう

登壇者:寶井英晴さん(蛇の市本店 五代目、三四四会会長)、岩本公宏さん(日本橋いづもや 三代目)、鈴木鉄平さん(青果ミコト屋 代表)

トークセッションでは、同じく三四四会のメンバーでもある老舗鰻屋、日本橋いづもやの岩本公宏さん、昨年度のつなぎふとに唯一街の外から参加し、日本橋を代表する老舗・にんべんとコラボレーションした青果ミコト屋の鈴木鉄平さんを迎えました。

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左から、青果ミコト屋・鈴木鉄平さん、日本橋いづもや・岩本公宏さん、蛇の市本店・寶井英晴さん

三四四会の2人は、昨年度のにんべん×青果ミコト屋の「だしアイス」を食した感想について「斬新でした。普段我々が商売をしているだけではこうしたものは生まれないし、ある種突拍子もないようなアイデアが、大きなはじめの一歩にもなるという気づきを与えてくれました」(岩本さん)、「こういうことを考えられるのは新旧のコラボだからこそだと思うし、にんべんの高津社長もこの取り組みに触発されたのか、鰹節ビールなど新しいことに取り組んでいますよね」(寶井さん)と語ってくれました。

(関連記事:https://www.bridgine.com/2022/03/14/team-c-2/)

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昨年度のつなぎふとで開発されたにんべん×青果ミコト屋による「だしアイス〜おだしのおめかし〜」

それを受けて青果ミコト屋の鈴木さんは、「自分たちより30倍も長く事業を続けている老舗企業に対して最初は身構えるところもありました。でも、企画会議には社長自らが参加され、横浜のお店にも来てくださり、柔らかい発想で僕らのアイデアを誰よりも楽しんでくれていました」と取り組みを振り返りました。

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「出汁を扱うにんべんさんは、『生臭さ』をネガティブな要素と捉えていたが、アイスに入るとそれが新鮮で美味しく感じた。これをなんとか伝えたいという思いで開発に取り組んだ」と鈴木さん

まさにこのコラボレーションが象徴するように、日本橋には地域の外や新しい世代に対して開かれたマインドがあることが大きな特徴のひとつです。蛇の市本店の寶井さんは、「老舗として変わらないものは実はひとつもなく、むしろ変え続けていかなければ残れない。だからこそ、新しい世代のアイデアは大歓迎だし、そこから次の世代につながるものが生まれると思っています」と日本橋の地で100年以上続く老舗として説得力のある言葉を残してくれました。

最後に日本橋いづもやの岩本さんが、「いづもやがある日本橋本石町の中で老舗やクリエイターらが一緒になって何かをつくれば、このエリアのことを知ってもらうきっかけにもなる。さらに、七福神めぐりのように『つなぎふと』のおみやげめぐりができるようになったら、街が面で盛り上がるのでは」と話してくれたように、さまざまなアイデアが活発に飛び交うセッションになりました。

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プレゼンテーション③日本橋の未来には、こんな手土産が必要だ

プレゼンター:川路 武さん(株式会社Goldilocks)

最後のプレゼンターは、株式会社Goldilocksの川路武さんです。川路さんは、以前にブリジンでも取り上げた「アサゲ・ニホンバシ」を主催する団体「日本橋フレンド」の創設者です。そんな川路さんが、ワーカー目線で日本橋に必要な手土産についてプレゼンテーションしてくれました。

(関連記事:https://www.bridgine.com/2020/04/02/nihonbashi-friend/)

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川路さんが挙げる手土産に必要な条件は、「ストーリーがあること」「すぐ買える、行きがけに買えること」「もらう側がモノや日時を選べること」の3つ。1つ目の「ストーリー」については、鎌倉の銘菓「鳩サブレ」を製造する豊島屋が、鎌倉の海水浴場のネーミングライツ(命名権)を高額で取得し、あえてビーチの名前を変えなかったという逸話を引き合いに出し、「おみやげを渡す時に語りたくなるストーリー、話題が広がるストーリーがあることが、ワーカーにとってはうれしいんです」と川路さん。また、忙しい日々を過ごすワーカーにとって、駅の改札付近などですぐに買えることも重要なポイントだと言います。そして、リモートワークが増え、会社に人が集まっていない時も少なくない昨今、「結婚式の引出物のようなカタログギフトがあって、その中からもらう側がモノや日時を選べるようになるといい」とありそうでなかったアイデアも提案してくれました。

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今年の7月まで三井不動産に在籍し、長年日本橋ワーカーとして働いてきた経験を持つ川路さん。「会社の受付に取引先に持っていく手土産が置かれていて、その場で経費精算までできたらいい」というワーカー目線のユニークなアイデアも

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トークセッション③ワーカー目線で考える、日本橋ならではの手土産

登壇者:川路 武さん(株式会社Goldilocks)、ジュンティーニ・キアラさん(高島屋 和菓子バイヤー)

トークセッションでは、全国の高島屋の和菓子バイヤーを務め、最近はテレビ出演でも話題となったイタリア出身のジュンティーニ・キアラさんを迎え、ワーカー目線から手土産の可能性について語り合っていただきました。

川路さんのプレゼンを受けてキアラさんは、「これまでの手土産は誰からも嫌われないような無難なものが選ばれがちでしたが、最近はそれでは物足りなくなっていて、ストーリーを語れるものじゃないと相手が喜んでくれないというのがあると思います」と話します。

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手土産の選択肢として欠かせない和菓子のプロであるジュンティーニ・キアラさん。「つくり手側にこだわりがあってもそれが届かないことは多い。ひと目でその素晴らしさが伝わるようなわかりやすさも大切」とおみやげづくりのポイントも教えてくれた

それに対して川路さんは、「おみやげにはリーフレットなどが同封されていますが、意外と渡す側が商品の背景や街のストーリーを知らなかったりする。おみやげを渡す側に向けて、相手に伝えるべきポイントをまとめた説明書きを用意してあげると良いと思うんです」と語り、日本橋のワーカーたちが自分たちの街について知るきっかけとしての手土産の可能性を示してくれました。

さらにこのセッションでは、事前に日本橋のワーカーに対して実施していたアンケート結果も三井不動産・新井さんから紹介されました。

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回答者の8割は月に1回〜半年に1回の頻度でおみやげを渡す機会があり、3000円台の品を味・ブランド重視で購入。老舗のコラボや日本橋エリアの詰め合わせセットなど、日本橋らしさがあり、渡した時に話題になるような要素を求める意見も多数あった。

アンケート結果を受けてキアラさんは、「コラボレーションを求める声が多いようですが、これは日本橋に限らず、最近の手土産やギフトに見られる傾向です。誰かに渡すものにせよ、自分のために買うものにせよ、色々なものを楽しみたいというニーズが強いのだと思います」と分析します。

今年度のつなぎふとでは、多くのワーカーを抱える日本橋の特性を活かし、ワーカーの方たちにもおみやげづくりのプロセスに関わってもらうことを目指しています。ファシリテーターの原田が、日本橋ワーカーたちが行きつけの飲食店と一緒につくる手土産のアイデアを2人に投げかけると、「大好きな飲食店の店主とつくったおみやげなら、渡す相手に『今度一緒に行きましょう』という話もできそう」(川路さん)、「仮に有名なお店ではなくても、行きつけの飲食店とつくったものなら自信を持って渡せるし、好きだからこそ語れることがある」(キアラさん)と応じてくれました。

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スタート地点に立った2年目のつなぎふと

大いに盛り上がった3つのプレゼン&トークの後は、イベント参加者それぞれに最も関心のあるテーマを選んで頂き、3グループにわかれて意見交換などを行いました。

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最後に、事務局から今年度のつなぎふとにおける制作体制やスケジュール、開発する商品の条件、パッケージデザインなどについての説明がなされ、すべてのプログラムが終了しました。

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長時間にわたるイベントでしたが、参加者の皆さんに「つなぎふと」が目指していることを知っていただくだけでなく、さまざまな観点から「おみやげ」や「つなぎふと」の可能性について考えていただく機会にもなったようでした。
2年目を迎えるつなぎふとは、いよいよここからがスタートです。ブリジンでは昨年と同様に、おみやげづくりのプロセスを継続的に発信していく予定です。今年度のつなぎふとにもぜひご期待ください!

文:原田優輝(Qonversations) 撮影:岡村大輔

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